読むと世界の見え方がガラッと変わる!
――本書のタイトルにもなっている「テクノ封建制」という概念は、どのように受け止めていますか。
石田 これはふたつの観点からお答えしたいと思います。ひとつ目は、そもそもテクノ封建制という概念が、資本主義についての理解の枠組みを根本的に変えてしまうのかという問題があるわけです。
この本では「資本主義は終わった」と語られているんですが、それに対しては経済理論の立場からさまざまな見解があるのでしょう。僕にとっては、そこは少し専門外なので、はっきりとした判断は留保したいと考えています。
例えば、ハーバード・ビジネススクールの名誉教授、シャショナ・ズボフが書いた『監視資本主義』という本がありますよね。あれは本当にアメリカ人にしか書けないような、緻密な取材と調査によって成り立っている優れた書物で、日本でもすでに重要なレファレンスになっています。僕も講演などで「あの本は皆さんご存じですよね」という形で話をすることがあります。
ただ、ズボフ自身は「テクノ封建制」という言い方には否定的で、「それは違う」と明言していたりもする(笑)。だから、専門的な領域ではいろいろな論争があると思います。そこは僕の判断が及ばない部分ですね。これがひとつ目の答えです。
でも二つ目の観点として、「実際に世界が封建制みたいになってきている」という実感は、多くの人にじっさいにあると思うんですよ。トランプのような人物が登場して、独裁や権威主義といったものが堂々と前面に出てくるようになった。そういう時代の空気を、本書は鋭く捉えていると感じました。
だから理論的に厳密に専門家たちが考えた時にどうなのかはさておき、直感的には「確かにそうだ」と思える。これはきっと僕だけではなく、みんなが感じていることだと思うんですよね。
資本主義という枠組みについては、僕の周囲でもさまざまな意見があります。監視資本主義だという人もいるし、いやプラットフォーム資本主義だという人もいる。
でも、こうした議論は、資本主義の変種であることが前提になっているんですよね。それに対してバルファキスは、「いや、これはもう資本主義の終わりで、むしろ封建制に戻っているのではないか」という、かなりラディカルな見方を提示している。
その見方によって、世界の見え方がガラッと変わる。そして一度そのレンズで見ると、さまざまな現象が説明できてしまう。直感に訴える力も強くて、本当に“目から鱗”のような体験になると思います。
資本主義がどう変容したのかというのは、専門家がさらに深く掘り下げてくれればよい。でも、僕たち一般の読者にとっては「今、どんな地図を持って世界を読めばいいのか」を示してくれることが大事で、そうした見取り図を提供してくれる本書の意義は非常に大きいと思います。
問題の争点を明確に示し、読者に「これは考えなければいけない」と思わせる力を持った本なので、「ぜひ読んでみてください」と言いたくなるんです。
構成/斎藤哲也