池井戸 潤『ハヤブサ消防団』文庫化!
好きなことだけでは、続けていけない。だから模索し、挑戦する気持ちが生まれる。
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アイデアの生まれる場に居合わせる。それも、編集者の大事な才能
山本 池井戸さん、お久しぶりです。そして今日、ここに、ドラマで僕が演じた中山田洋の〝本物〟がいらっしゃってるとお聞きしたんですが……。
池井戸 来てますよ。どの人だか、わかります?
山本 (周囲を見回して)えっと……あ、もしかして、あちらのピンクのシャツの方?
池井戸 そう、彼がモデルです。苗字は僕の担当編集者たちから少しずつ取って組み合わせたんですが、下の名前は同じ。
山本 やっぱり! はじめまして(本物に挨拶)。なんとなく、服装で察しがつきました(笑)。
池井戸 これまでに編集者の役を演じられたことは?
山本 たぶんはじめて、だと思います。でも、中山田はすごく楽しい役でした。父親の故郷で暮らしはじめた作家・三馬太郎のもとに東京の出版社からやってくる編集者で、八百万町ハヤブサ地区に暮らす消防団のメンバーとは立ち位置の異なる人物ですが、皆のたまり場である居酒屋「サンカク」に行ったり、太郎と釣りをしたり、ゴルフに行ったり。本物の中山田さんも、やっぱりそんな感じなんでしょうか。
池井戸 彼は文芸の編集者らしい編集者ですね。ゴルフ、祇園……あともうひとつの「G」は何だっけ? あ、銀座か。
3Gが得意で、作家をダシにして遊んでいて、その合間に仕事しているという(笑)。
山本 ハハハ。いいですね。
池井戸 だから、山本さんが演じた中山田を見たとき、まさにイメージ通りだと思いました。派手なアロハシャツで田舎町に現れて、仕事をしに来ているのか遊びに来ているのかよくわからないけれど、本人が楽しんでいるのは間違いないと。
山本 確かに。中村倫也くんが演じるゆったりしている太郎と違って、中山田はいつも何かをまくし立てているキャラクター。だけど、状況を説明するような台詞もたくさんあったりして、今思うと、わりと難易度の高い役だったなと……。実は『ハヤブサ消防団』の撮影と同時期に、僕は他に3つの作品に関わっていたんです。Netflixの『地面師たち*1』とドラマ『きのう何食べた?*2』、それと映画『はたらく細胞*3』。
ただ、その中でも中山田の人物像はクリアだったし、撮影現場も毎回本当に愉快でした。
池井戸 すごい。それぞれ、ぜんぜんタイプが違いますね。
山本 とくに、シリアスで腹黒い役柄だった『地面師たち』とはスケジュールがほぼ被ってしまっていて、毎日、マネージャーに「明日は中山田さん? それとも石洋ハウス?」って聞いて、中山田さんですと言われると、フワーッと気が楽になる(笑)。役が明るければいいというものでもないんですが、それでも中山田のキャラクターには救われました。ひとつお聞きしたかったんですが、中山田のように、編集者が作家に小説のアイデアを提案することって、実際にあるんですか?
池井戸 ありますよ。ほとんどボツですけど(笑)。でも、ごくたまに「それはおもしろいかも」と思うときもあって……。たとえば、集英社の人たちとゴルフに行ったとき、ひとりが「ファイブフィンガーズ」という5本指のランニングシューズがいいという話をして、そういう靴って足袋屋さんでも作れるんじゃないか? と思いついた。老舗の足袋メーカーがランニングシューズを開発する小説『陸王』は、そこが発端になって生まれました。最初にネタを提供したから、もちろん本は集英社から出すことになる。作品が生まれるその場に居合わせることも、編集者の力量なんです。
山本 じゃあ、ゴルフに行くのも……。
池井戸 そうですね。編集者は原稿を書かせるのが仕事ですから、作家が思いついた瞬間に「それ、書いてください」と言えるかどうか。「何か書けたらお電話ください」みたいな人には、絶対にいい原稿は取れません。
山本 僕が演じた中山田はすごくアグレッシブだったから、そういう点でも、きっと有能なんでしょうね。
池井戸 そうですね。本物以上に有能だったりして(笑)。