「法を犯しても処罰されず、裏金も課税されず、失政をしてもメディアから追及されない」日本は「縁故主義」と「部族民主主義」によって「三流独裁国」に転落してしまうのか
「法を犯しても処罰されず、裏金も課税されず、失政をしてもメディアから追及されない」これはどこぞの後進国の話でなはい。ここ十数年、一部の自民党員たちが享受してきた特権である。なぜこんなにも日本の政治は没落し続けているのだろうか?
思想家の内田樹氏の最新著者『沈む祖国を救うには』より一部を抜粋・再構成し、三流独裁国に成り下がり始めている日本の未来を憂う。
沈む祖国を救うには#4
「愛国心」はプロパガンダで生まれるものではない
もう「日本」という政治単位そのものの土台が崩れようとしている。排外主義の亢進(こうしん)は「国が壊れる」ことへの恐怖心が生み出したものなのだが、別に移民や外国人が日本を壊していると彼らだって思っているわけではない。日本を壊しているのは日本人自身であるということはレイシストだってだってわかっている。
中国脅威論や移民亡国論のような排外主義的な言説がこれからますます猖獗(しょうけつ)を極めると思うけれども、国を壊している当の自民党が国民に向かって「愛国心を持て」などと口走っている。いったい、どの口が言うのか。
本当に愛国心を涵養(かんよう)したいのなら、「世界のどの国にも住みたくない。何がなんでもこの国で暮らしたい」と全国民が思えるほど居心地のよい国をつくればいい。
それなら国民は自分の国を守るためになら何でもしようと思うだろう。税金だって喜んで払うし、国旗にも敬意を示すだろう。愛国心はプロパガンダで生まれるものではない。
それに日本はまだまだ捨てたものではない。各地で、「小さな公共」を手作りしている人たちがいる。
私が個人的に存じ上げている中にも、北九州で「抱樸」というホームレス支援活動をしている奥田知志牧師や、関西で「D×P」という10代の少年少女を支援している今井紀明さんのように身銭を切って「公共」を立ち上げ、孤立した貧しい人たちを相互支援ネットワークに包摂するために活動している人たちがいる。
私は彼らの運動と組織を高く評価するけれど、それは何よりも彼らが「公共」を再構築しようとしているからである。小さな公共を創り出そうとしているからである。
これらの小さな運動を少しずつ広げ、つなげて、全国に広がるゆるやかなネットワークを創り出すこと、近代の復興のために私が思いつけるのはそれくらいである。日本の未来はたしかに明るくはないけれど、希望がまったくないわけではない。(2024年7月11日)
写真/shutterstock
2025/3/27
1,100円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4838775293
なぜ日本はこんなにも「冷たい国」になったのだろう――
物価上昇にステルス増税、政財界の癒着、そしてマスメディアの機能不全……
激動の国際社会の中で、沈みゆく「祖国」に未来はあるか!?
ウチダ流「救国論」最新刊!!
ここ数年で、加速度的に「冷たい国」になってしまった日本。
混迷を極める永田町、拡大する経済格差、税の不均衡、レベルが落ちた教育界など問題が山積となっている。
また、アメリカの新大統領がトランプに決まり、国際情勢も先行きが不安定である。
生活苦しい国民に手を差し伸べることのない冷たい国で、生き抜いていくためにはどうしたらいいのか……。
この「沈みゆく国」で、どう自分らしく生きるかを模索する一冊!
<項目>
★「観光立国」という安全保障
★「最終学歴がアメリカ」を誇る、残念な人々
★ 加速する「新聞」の落日
★「食糧自給率」が低い――その思想的な要因
★ 第二期トランプ政権誕生の「最悪のシナリオ」
★ 民主政の「未熟なかたち」と「成熟したかたち」
★「自民党一強」の終焉
★ 80年後に残る都市は「東京」と福岡のみ
★ 今、中高生に伝えたいこと ……etc.
<本文より>
今の日本は「泥舟」状態です。一日ごとに沈んでいるし、沈む速度がしだいに加速している。
もちろん、どんな国にも盛衰の周期はあります。勢いのよいときもあるし、あまりぱっとしないときもある。それは仕方がありません。国の勢いというのは、無数のファクターの複合的な効果として現れる集団的な現象ですから、個人の努力や工夫では簡単には方向転換することはできません。歴史的趨勢にはなかなか抗えない。
勢いのいいときに「どうしてわが国はこんなに国力が向上しているのだろう」と沈思黙考する人はいません。そんなことを考えている暇があったら、自分のやりたいことをどんどんやればいい。でも、国運が衰えてきたときには、「どうしてこんなことになったのか?」という問いを少なくとも、その国の「大人」たちは自分に向けなければいけません。【中略】 読者の中には、読んでいるうちに「自分こそが祖国に救いの手を差し伸べる『大人』にならないといけないのかな……」と思って、唇をかみしめるというようなリアクションをする人が出て来るような気がします。そういうふうに救国の使命感をおのれの双肩に感じる読者を一人でも見出すために僕はこれらの文章を書いたのかも知れません。 ――「まえがき」一部抜粋
<目次>
第1部 冷たい国の課題
第1章 衰退国家の現在地
第2章 世界の中を彷徨う日本
第3章 温かい国への道程
第2部 冷たい国からの脱却
第4章 社会資本を豊かにするために
第5章 教育と自由