長年苦しんだ症状が劇的に改善

昔の石尾さんを知る人に言わせると、ひきこもっていたころは話し方もたどたどしかったそうだ。15歳で統合失調症と診断されて以来、不眠や「謎の倦怠感」に長い間苦しんできたが、今は元気そうだし話もとてもスムーズだ。

どのようにして回復したのかと聞くと、2、3年前に症状が劇的に改善したのだという。

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それまで石尾さんは金沢の病院の精神科に通院していたのだが、遠くて通うのが大変なこともあり、地元の珠洲市の病院で診てもらった。そこで心理テストを受けると、こう言われた。

「あなたは統合失調症よりも、発達障害のASD(自閉スペクトラム症)の方が強く出てますね」

そして、新しく処方された薬を飲むと、よく効いたのだと話す。

「まだ若い先生だけど腕がすごくよかったんですね。それまでは規定量の薬を飲んでも眠れなかったのに、今は飲んだ直後に眠れるし。たまたま病院を替わって、いい先生に巡り合えたのは運が良かったんです。繰り返すようですが、人生は何が幸いするか、ほんとわからないですね」

また、発達障害だと診断されたことで、気持ちにも変化があった。

「僕の部屋を見ていただくとわかると思うんですが、やたらこだわりが強くて、自分の好きなものを、バーッて集める癖があって。お金に余裕がなくても買っちゃうから、マヨネーズご飯をよく食べています(笑)。

それに、人がカチンとするようなことをパッと言っちゃう。悪気もないし陥れようという気持ちもないのに、相手を怒らせちゃう。大学時代に『そういう言い方はよくない』と教えてくれる友だちができたんで、失敗を重ねて改善はできたんですよ。ほんのちょっとずつですけど(笑)。

こだわりの強さも人を怒らせちゃうのも、わざとじゃなかったんだと医学的に証明されてホッとしました。それまではなんかやらかすたびに、何でこんなことをするんだと自分を責めていたんで」

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当時はまだ発達障害という言葉すら知られていなかったが、小中学校でいじめられたのも発達障害の特性が関係していたのかもしれない。「謎の倦怠感」も、それまで処方されていた薬が合わなかった可能性がある。石尾さんもそれを十分わかった上で、前を向こうとしているのだ。