「まさか自分が糖尿病になるなんて…」
「糖尿病は恐ろしい」
佐野さんは毎回決まってこの言葉で自身のブログ記事を締める。それは球界OBで誰よりもその恐ろしさを知る男の精いっぱいの警鐘なのだろう。
「糖尿病という名前は知っていて合併症が生じる危険性があると何となく認識していても、具体的にどうなるってみんな知らないじゃないですか。
僕もこうなって初めて知りましたけど、だからこそ発信していきたいんです」
約30年前、決して金払いがいいとは言えない近鉄バファローズという球団で、中継ぎ投手初の1億円プレーヤーとなった。だが、“稼ぎ頭”にして苦楽をともにした彼の右腕は、すでにない。
発端は引退後、フリーで野球評論家活動をしていた39歳のころだった。
「肺炎で入院したときに血液検査をしたら、血糖値が350(mg/dL)で糖尿病と診断されました。まさか自分が糖尿病になるなんて想像していなかったので驚きましたね」
空腹時血糖値の正常値は99mg/dL以下。誰が見ても異常な数値だった。
糖尿病とは、血液中の糖をエネルギーに変える「インスリン」というホルモンが何らかの理由で働かなくなって、血糖値が上昇してしまう病気。そして、高血糖の血液が体内をめぐることで血管が傷つき動脈硬化となり、「神経障害」や「腎臓病」、「心筋梗塞」といった深刻な合併症を引き起こすのだ。
糖尿病には免疫異常やウイルス感染によってインスリンがほとんど、あるいはまったく分泌されなくなる「1型」と、生活習慣や遺伝によってインスリンが不足する「2型」とに大別される。
佐野さんが診断されたのは「2型」。彼の世代のプロ野球選手といえば、暴飲暴食が日常化した選手も多かった。やはりそうした不摂生が原因だったのか。
「たしかに食事量は一般の人よりも多かったと思いますが、引退後は夜中にたくさん食べることはなくなっていたし、家族もいたので飲みに行く機会もすっかり減っていました。
だから糖尿病は誰にでも起こりうる病気だと感じています」