優秀過ぎて、いじめの標的に
竹内健輔さん(仮名・39)は幼いころから飲み込みが早くて何でもよくできた。
小学校に入ると硬筆で何度も表彰されたり、絵を描くのも得意で県の美術展に出品したり。中学受験をするつもりで小学4年生から進学塾に通い始めると、学校の勉強が簡単すぎて、テストはどの教科も10分足らずで解き終えてしまう。まさにギフテッドと呼ばれるような優秀な子どもだった。
ギフテッドの中には突出した才能を持つゆえに、他人のことは気に留めない人もいるが、竹内さんは周囲の人の気持ちにも敏感で、クラスメートがケンカを始めると率先して仲裁に入ったりしていたという。
5年生になると担任の先生から「テストが10分で終わるんだったら、余った時間でわからない子に解き方を教えてあげて」と頼まれた。中にはちゃっかり「答えだけ教えて」と言う子もいたが、「それはダメだよ」と生真面目に断った。
頑張るほど否定される日々
だが、しばらくすると嫌がらせを言われるようになる。
「竹内くんは将来エリートなんでしょ」「ハッピーマンだからね」
率先して“口撃”してきたのは、女子の中心にいるプライドの高い子たちだった。
「すごい嫌味ったらしく言われて、ショックで、ものすごく傷ついたんですよ。そもそも塾で勉強しているからできるのに、自分が頑張れば頑張るほど周りからは否定される。で、どんどん無気力になっちゃって……」
それまで休み時間には校庭でドッジボールをしたり、外を走り回っていたのに、遊ぶ気力も出ない。
「学校に行きたくない」
竹内さんはそう言って、家にひきこもる日が増えていった。
母親に理由を聞かれても、「わからない」としか答えられない。最初のきっかけになったいじめについても、一切口にしなかったそうだ。
「1年生のころからずっと仲よくしていた子たちだったから、彼女たちの名前を売るようなことはできなかったんですね。自分でも、どうして気力が出ないのかわからないから、自分が我慢すればいいやと思って。家でも我慢させられることが多かったから……。
たぶん、うつ病みたいな感じだったんだと思います。歯磨きをしている最中に疲れちゃって学校を休むとかよくありましたから」