いじめるのも人間、救ってくれたのも人間

石尾さんはひきこもりを脱してから、地元のテレビ局や新聞の取材を受けたり、支援団体などに呼ばれて、震災とひきこもりの体験を話したりしている。

「いじめとかひどいことをするのも人間ですが、救ってくれたのも人間なんですよね。今苦しんでいる人たちには、いい人間はたくさんいるし、怖がらなくてもいいと伝えたいです。

僕だって、普通に就職して、結婚して、子どもを持ちたかった。でも、それはできない代わりに、自分の体験を社会に伝えることで、自分を保てる部分があるんです。話すことで一番救われているのは僕自身なんです」

震災から1年たった2025年の正月に書いた書き初め。「まっすぐ、生きていけたらいい」という思いで書いたそうだ
震災から1年たった2025年の正月に書いた書き初め。「まっすぐ、生きていけたらいい」という思いで書いたそうだ
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石尾さんがシェアハウスで暮らし始めて1年経った。「今の生活は楽しいし、ずっとここで頑張りたい」と言うほど馴染んでいるが、今でもたまに能登の夢を見るそうだ。

夢の中ではみんな笑顔で、自然豊かで平穏な田舎の風景がどこまでも広がっている。家もインフラも壊れたままで集落の再建は難しいが、「やっぱり人生の最後は珠洲で迎えたい」と故郷に思いをはせている。

〈前編はこちら『能登半島地震で家を失った44歳のひきこもり男性、避難所の仮設トイレに“死んでも行きたくなかった”ワケ』

取材・文/萩原絹代