両親が生きている間に自立した姿を見せられた

シェアハウスではこれまで13年で34人の元ひきこもり当事者が暮らしてきた。長く暮らす人もいるし、次の居場所を見つけて出ていく人もいる。

今の住人は男性3人だ。石尾さんはシェアハウス2階の6畳間で生活をしながら、林さんが営む便利屋で働いている。最初の仕事は、掃除だった。

「仕事っていうのは地獄の苦しみしかないもんだと勝手に思っていたんです。だけど、あーだこーだ言わずに、体を動かして働いてみると楽しかった。意外と正解はシンプルなんですね。汚いところを綺麗にしたら達成感もあるし、依頼主さんがありがとうって言ってくれる。やっぱり社会から求められるって、うれしいですね。

それに給料ももらえて、自分の好きな本とか骨とう品も買えるし。“物欲”って、よくないことのように言う人もいますが、僕は好きな物で満たされたいという欲があるから頑張れる。それが働く原動力にもなっています」

シェアハウスの石尾さんの部屋には、好きで集めた骨とう品や人形などがぎっしり
シェアハウスの石尾さんの部屋には、好きで集めた骨とう品や人形などがぎっしり

林さんによると、ゴミ屋敷の清掃の依頼が多いが、シェアハウスの住人や卒業生に声をかけても嫌がる人が多い。それなのに石尾さんは喜んで行ってくれるので助かっているという。石尾さんに理由を聞くと、こともなげに答える。

「もともと物がいっぱいで汚ねえ部屋に住んでたんで、免疫がついちゃった(笑)。人によっちゃ、ゴミ屋敷の臭いだけで吐きそうになるけど、僕はそれがないんで。ほんとにね、何が幸いするかわからない。もしかしたら、人生の楽しさって、そういうことかもしれないですよね」

石尾さんは初めて稼いだお金で、祖母に松前漬け、父親にウイスキーをプレゼントして、母親には少しお金を渡したという。

「そういうことは一生できないと思われていたんで、みんな喜んでましたね。両親が生きている間に家から出て、なんとか自立して生活する姿を見せられたのがよかった。お金を稼げるようになったことよりも、そっちの方が僕の中では大きいです。

地震で亡くなった方もいるので、自分だけこんなに幸せでいいのかなと思うくらい、幸せですよ。林さんがいなかったら、今の人生はなかったです。ほんと感謝しかないです」