小学校3年生で三島由紀夫を愛読していた
幼いころから石尾さんは音に対して過敏で集団生活が苦手だった。周囲に合わせることもできず、自分の好きな世界で生きていたという。
「昆虫が好きで図鑑はよく読んでいたけど、小学校に入ったときは何にもできなかったんです。協調性がなく、勉強もできない、スポーツもできない。能登の言葉で『だら』とバカにされたり、痩せていたんで『ガリ』ってからかわれたり」
友だちもおらず、長い休みになると母方の祖父母の家で過ごすことが楽しみだった。幼稚園の先生をしていた祖母は読書家で、特に好きなのは三島由紀夫。石尾さんも祖母の影響で小学校3、4年のころには三島の作品を読んでいたそうだ。
「意味はよくわかんなかったけど、すごい人と対話しているような感覚になったんで」
高学年になり勉強のコツをつかむと、国語や社会、理科の成績がぐんと伸びた。関西の中高一貫校に行きたかったが、車のディーラーをしている父親に「お金がかかるからダメだ」と言われ、地元の中学に進んだ。
みんなが自分の悪口を言っている
突然、いじめのターゲットになったのは、中学3年のときだ。
「こんなの嘘八百なんですけど、僕が女の子に酒とかタバコを勧めたとかって。何の根拠もない噂を流されて……。僕は成績もよかったし、意外と女子とも仲よかったんで、気に食わなかったんでしょうね。
いじめの加害者の1人が今、教師やっているんです。ほんで、いじめはよくないと言っているらしい(笑)。それを聞いたとき、正義なんかこの世にないんだと思ったし、すごく複雑でしたね」
石尾さんがいくら否定しても噂は消えず、眠れなくなった。学校ではみんなが自分の悪口を言っているように聞こえる。家でテレビを観ていても人の話し声が悪口に聞こえた。
不眠と幻聴はひどくなる一方だったが、いじめのことは親にも言えず、朝になると学校に行った。
「明らかに体調がおかしかったので、これはまずいなと思っていたんですけど、学校には行かないとダメだと。でも、そんなに嫌なら行かなきゃよかった。そうすれば、ここまで心が壊れることはなかったんかなと思いますね」
中学を卒業して精神科を受診すると統合失調症だと診断され、精神安定剤などを大量に処方された。
市内の高校に進学したが、中学時代のいじめの加害者と同じクラスになってしまい、1か月も経たずに行けなくなる――。
「もうダメだと思って、ゴールデンウイークに薬をたくさん飲んじゃって……。精神科の先生は激怒して、『高校なんか辞めちまえ』って。退院して、ひきこもり状態になって、留年です。1年遅れで2年生になって、あんまり行けなかったんですけど、なんとかお情けで卒業させてもらいました」