〈後編〉

転校早々いじめの標的に

「幼少期は地獄でしたよ、ホントに」

なおさん(48)が吐き捨てるように言う生活が始まったのは、小学2年生のとき。両親が離婚して、会社員の母親と2歳下の弟の3人で、都内に引っ越したことがきっかけだ。新居は母親の実家の近くだったが、町全体が荒れていてガラも悪い。なおさんは転校早々いじめの標的になってしまったのだという。

「家でテレビゲームをしているのが好きで、外に出ないおとなしいタイプだったんです。運動音痴で体育も苦手だし走るのも遅い。たぶん抵抗しなさそうだから(標的に)選ばれたって感じで、いろいろありましたね。

朝、学校に行くと、自分の椅子に画びょうがたくさん置いてあって、知らずに踏んじゃって、“うわぁ”とか。集団で囲まれてボコボコにされたりとか、無視もすごかった。うちの学年は、特に荒れているって評判で、中学卒業するまではずっとそんな感じだったから、学校に行くのは怖かったです」

なおさんは学校の先生に、いじめの事実を伝えた。だが、特に何も対応してくれず、いじめも収まらなかったそうだ。

母親にも、学校でいじめられていると何度も訴えた。でも、「あんたの根性が弱いからいけないんでしょ。強くならなきゃダメ」と取り合ってくれない。

「母親も必死だったんじゃないですか。離婚して仕事と家事と自分のことでいっぱいいっぱいで、子どものことはあんまり面倒みてくれなかったんですよ。おばあちゃんは同じ町にいたけど、離婚して1人で子どもを育てたスパルタな人なんで、怖くて弱音なんて吐けないっすよ。

今みたいにネットがない時代だから、どこに相談していいかもわかんないし、話し相手もいないし、とにかく孤独でした。なんでこんな家庭に生まれちゃったんだろうと、親を恨んだりもしたし、ホント早く死にたかったですね。子どものころは都営住宅の5階に住んでいたんで、そっから飛び降りようと考えたり。でも、理屈抜きで、“死ぬの、やっぱ怖いわー”って思って、実行できなかっただけで」

写真はイメージです。写真/Shutterstock
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家にひきこもって母の恋人に殴られる

中学に入ると「学校に行ったら殺されるかもしれない」と恐怖を感じて登校できなくなった。学校に行くふりをして適当に近所を散歩して、母親が出勤したのを見計らって家に戻る。なおさんは家にひきこもって、ひたすらテレビゲームをしていた。

だが、当然のことながら欠席が続くと学校から親に連絡が入る。

「なんで学校サボるの?」「学校行きなさいよ!」

母親に説教をされたが、無視した。当時、よく家に来ていた母親の恋人にも不登校を責められ、母親の目の前で殴られた。

写真はイメージです。写真/Shutterstock
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「ちっちゃいころから、母親には部屋が散らかってるとか、字が汚いとか、些細なことですぐ怒られたし、口答えしようものなら、ビンタが飛んできた。それが当たり前だと思って生きてきたけど、幼少期の環境はいろいろおかしかったし、今思うと虐待ですよね。それが昭和と言ってしまえばそれまでかもしれないけど、大人になって他の家と比較できるようになったら、うちは普通じゃなかったんだなと思いましたもん」

そこまで一気に話すと、なおさんは「タバコ吸いに行ってきます」と言って席を立つ。数分後に戻ってくると「幼少期のことを思い出すと、やっぱりけっこうフラッシュバックするんで……」とつぶやいた。