(後編)

転校後に始まった陰湿ないじめ

大橋史信さん(43)は、自分のことを「生きづらさ5冠王」と称する。

①いじめ・不登校 ②家族との確執 ③発達障害 ④ひきこもり ⑤ワーキングプア……このうちの1つがあるだけでも生きづらさを感じることがあるのに、大橋さんの場合、すべてが自分に当てはまるのだという。

いったい、どんな人なのか。興味を抱いて会ってみると、とにかく人なつっこい。女性を見ると相手の年齢に関係なく「母ちゃん、母ちゃん」と呼んで、懐に飛び込んでくる。断続的に10年以上ひきこもっていたというが、そんな姿は想像できないくらい明るい。

大橋さんは1980年、東京生まれ。7歳上の兄がいるが、年が離れているため、一人っ子のように大事に育てられたという。幸せな日常が暗転したのは小学3年生のときだ。夏休みに引っ越して、新しい学校に転校して1週間後ぐらいからいじめが始まった。

「ガキ大将みたいな子がいて、最初は仲よくしてくれてたんですけど、その子がある日突然、僕をいじめるようになったんです。そうしたら、クラス全員対私みたいになって、教科書を隠される、物がなくなる、追いかけられる、蹴られる、悪口、無視……全部ありましたね。特にね、女子がひどかった。陰湿ないじめをする子が多くて、すごいきつかったです。

で、私、左目が見えなくなったんですよ。PTSDを起こしちゃって。目の視野が米粒っていうか、本当に弱くなっちゃって眼鏡をかけたんですよ。それぐらい、追いつめられました」

自らを「生きづらさ5冠王」と称する大橋史信さん
自らを「生きづらさ5冠王」と称する大橋史信さん
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「いじめられるお前が悪い」

教師はいじめを止めてくれなかったのか。不思議に思って聞くと大橋さんは「逆、逆」と身振りを交えて否定する。

「いじめが本当にひどくなってきたときに、うちの担任は『大橋くんをなぜいじめるのか』という作文を学年全員に書かせたんですよ。それを私と親に読ませました。そういう先生。何が書いてあったか、もう詳しくは覚えていないですよ。私を非難する言葉とか、デブ、とかだったかな」

小学校の教師だった父方の祖母がいじめの話を聞き、教育委員会に訴えた。両親は学校の管理職とも話をしたが、返ってきたのは、信じがたい言葉だったという。

「転校生がちょっかいを出されるのは通過儀礼です」

大橋さんは学校に行くのをしぶるようになる。通学路で児童を見守る「緑のおばさん」と仲よくなり一緒に登校してもらったりしていたが、学校に行けず家にひきこもる日も多かった。

「うちの親は世間体をすごく気にするから、『いじめられるお前が悪い』、『お前が弱いからつけ込まれるんだ』とか、すごく言われました。それで、精神を叩き直してやるって、地域の警察官がやっている柔道教室に入れられたんです。ハハハハ。でも、自分の今のこういうキャラクターは昔から変わっていないので、警察官にはかわいがられたんだよね。同級生はダメだけど、年上年下はOKみたいな」