「謎の倦怠感」が続き、ひきこもる
その後、金沢星稜大学に進み経済学を学んだ。幻聴は続いており、入学早々「もう辞めたい」と思った。だが、大学裏の通りでボーっとしていると「ご飯行かねえ?」と声をかけてくれた同級生がいて、仲よくなったことで「もうちょっといようかな」と気持ちが変わる。
「もし、そのとき誘ってもらわなかったら、たぶんすぐ実家に帰って、ひきこもってました。ほんと運がよかったんです」
イベント系のサークルに入り、小学生とキャンプをしたり冬はスキーに行ったり。友だちと飲みに行くなど、ごく普通の学生生活を楽しむ一方で、体調不良は続いていた。幻聴はだいぶ改善されたが、日中は「謎の倦怠感」があり、眠いのに、眠れない。卒業まで5年半かかった。
「就職氷河期でしたが、一緒にバカやってたヤツらが就職決めていって、やっぱ正直、羨ましかったです。僕は病気がひどかったんで就活もしなかったんですが、周りの大人が『どうするが』って軽く聞いてくるのが嫌でしたね。ヤバいのは自分自身が一番よくわかっとるし、どうしようもならんのに」
25歳で大学卒業後、実家に戻り、ひきこもった。ときどきコンビニにタバコを買いに行く以外、ほとんど自室で本を読んで過ごしたという。「心に残った本は?」と聞くと、太宰治の『人間失格』を挙げた。
「ベタなんですけど、ああいう風に自分の弱さをさらけ出す人ってすごいなと思って。すごい人らが書いた文章を読むことによって、錯覚かもしれないけど、自分も社会との接点があるんじゃないかって思いたかったんです」