ハリスの「四重苦」とアメリカの分断
米ニューヨークに行く直前に、信頼している現地の2人の日本人ジャーナリストXさん、Yさんに事前予測をしてもらった。
Xさんは在米40年近く、米大統領選挙の変遷を体感してきた方だ。曰く、ハリスは四重苦を抱えている。経済政策の音痴ぶり、移民問題での無為無策、黒人男性層からの不人気、女性であること。この四重苦でトランプが優位に立っている、と。
激戦州のペンシルベニアもトランプがとるでしょう、これが決定的と。勝者が決まるタイミングも案外早いのではないか、というのがXさんの見立てだ。
Yさんも20年以上ニューヨークに暮らすジャーナリスト。Yさんの見方はXさんとはかなり異なる。今回の大統領選は大接戦で時々刻々と情勢が変化している。メディア界での世論調査の参照枠のようになってしまっているRealClearPoliticsの数字など当てにならないと言う。
Yさんの現場取材精神は、これぞ記者という感じで、小さな選挙集会の空気の変化まで現場で感じ取る手法を貫いてきている。その体感では、ハリスに期待をよせる人々の思いは、ヒラリー・クリントンの時とはかなり異なっているという。
何よりもメディア環境が激変し、社会全体でのジェンダー、マイノリティをめぐる意識の変化が背景にあるので、その意味でもカマラ・ハリスが勝っても少しもおかしくないというのだ。
一部のメディアが報じるように、投票日の夜、カマラ・ハリスは、自身の出身大学=ハワード大学(ワシントンDC所在)で「勝利集会」を開くということで、Yさんはそこに駆けつける予定だ。
僕はアメリカに暮らしているわけではないし、現地に暮らす人の情報量と判断力には脱帽するしかない。にしても、信頼する知人のジャーナリストがこの時点でここまで異なる事前予測をしていることに大きな戸惑いを覚えた。
それくらいの大接戦なのかということに加え、アメリカ社会の分断がこの10年足らずの間に、驚くべき深刻さで進んでしまったということもあるのだろう。
映画監督のマイケル・ムーアが、トランプに票を投じる人々の内奥に迫った映画『華氏911』(2016年)が提起した問題は、今現在も変わっていない。それどころか今はアメリカの内戦を描いた映画『シビル・ウォー』まで公開されている。