発砲を防げなかった最大のミスとは

トランプ前大統領が助かったのは、まさに「運が良かった」の一言に尽きます。

事件後、右耳をガーゼで覆い、右拳を掲げるトランプ前大統領(写真/共同通信社)
事件後、右耳をガーゼで覆い、右拳を掲げるトランプ前大統領(写真/共同通信社)
すべての画像を見る

犯人のトーマス・クルックスが使用したとされるDPMS製AR-15/5.56㎜ライフルは、連射機能がないだけで軍用の自動小銃と同等の性能・威力があります。有効射程は400ⅿ以上で、今回の犯人はトランプ前大統領からわずか130ⅿという距離から狙撃しています。

訓練を積んだ軍人などでなくとも、それなりに練習すれば充分に当てられる可能性が高い距離と言っていいでしょう。実際、クルックスは銃の所有者である父親と一緒に、しばしば地元の射撃場で練習していたことがわかっています。

そこで警備上の今回の最大のミスは、なぜそんな場所に銃を持った犯人をやすやすと行かせてしまったのか? ということになります。

米国では大統領は退任後も、生涯にわたって国家機関から警護を受けます。それを担当するのは、国土安全保障省の隷下の「シークレット・サービス」という組織です。今回もトランプ前大統領の警護計画を統括するのはシークレット・サービスの役割です。

ただ、シークレット・サービスは人員が限られていますので、警備に地元警察に協力を要請します。州警察、郡警察などです。そして、シークレット・サービスが主導して警備計画を検討・作成します。

通常、集会の会場内はシークレット・サービスが警備し、会場外は地元警察が警備します。今回も会場内はシークレット・サービスが警備しましたが、犯行現場の建物およびその周辺は地元警察が警備を担当しました。

写真/shutterstock
写真/shutterstock

集会はペンシルべニア州のバトラー郡という地方都市で行われたのですが、今回の警備では、バトラー郡警察の精鋭部隊のSWATチームはすべて会場内でシークレット・サービスの補佐に投入されており、犯行現場周辺の警備には、通常の警察署の警察官が投入されていたようです。

なお、シークレット・サービスは当然、会場を事前にチェックして警備計画を立てますから、まさにうってつけの狙撃ポイントである犯行現場の建物屋上に、警備の警察官を配置しなかったことが問題視されています。

それに対し、シークレット・サービスのキンバリー・チートル長官は7月16日、米ABCテレビで「その建物の屋根には傾斜があったので、危険なために警察官を配置していなかった」と説明しました。

しかし、これには批判が殺到しています。たいした傾斜でなかったからです。実際、会場の演壇後方でシークレット・サービスの狙撃手が待機していた建物の屋根より、ずっと勾配は小さいです。おそらくこの「狙撃最適ポイントである危険な屋根に警備を置かなかった」のが最大のミスです。