消えたトランプの地名
ニューヨークに向かう機内では、今年度のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンの本をずっと読んでいた。あまりにも素晴らしくて眠れなかった。『菜食主義者』には頭を強打されたような気持ちになった。
パスポートコントロールを出たのは深夜の24時をすでに過ぎていた。JFK空港から今回の旅の宿(個人宅)への移動は、こんな深夜ではタクシーしかない。すんなりとイエローキャブに乗れた。
今のシステムではJFKからNYのダウンタウンまでの基本料金は一律73ドル50セント。そこから場所によって追加料金が加算される。チップは必須で、最低でも20%で合計100ドル弱。この円安のご時世、1万5千円とお高い。
乗せてくれたタクシードライバーはバングラデシュから渡米し14年になるとのこと。バングラデシュといえば、8月、政変直後に行ってきたのでついつい話しかけてしまったが、なかなかしんどかった。
「アメリカの選挙権があるのですか?」と聞くと「ある」と。それで思い切って「トランプ、ハリスどっち?」と聞くと「それは秘密」と初めて笑みを浮かべた。そして「個人的にはカマラ・ハリスが好ましい」とだけつぶやくように言って去った。
そして、ニューヨークに着いて知ったのだが、現地時間3日の夜(午後11時30分から)アメリカ・テレビ界の国民的人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』に、カマラ・ハリスが生出演するというのだ! 笑ってしまう。
『サタデー・ナイト・ライブ』を見たら、これが実にスマートで過激。カマラ・ハリスはすっかり個性的な出演者陣の一部になって溶け込んでいた。もっともこの番組が大受けした要素の一つは、トランプのモノマネ芸人さんがあまりにも本人によく似ているからだったけれど。
午後はニューヨーク市内を歩き回る。と言っても今日は日曜日なうえに、ニューヨークマラソンが開催されている日。お天気もよく、ニューヨークの街中を見る限り平和そのもので、あまり大統領選を思わせるような空気はない。タイムズスクエアは平和そのもの。まあ、僕も含めて世界のおのぼりさんらが集まる場所だし。
インドから来たという女性が話しかけてきた。写真を撮ってくれというお願いだった。それで(母親がインドにルーツをもつ)カマラ・ハリスが大統領になると思いますか?と尋ねたら「全く関心がない」と取りつくしまもなかった。
かつて暮らした西72丁目のアパートを訪ねてみたら、建物の名称が変わっていた。2012年には「トランプ・プレイス」という名前だったが、住民たちがトランプという名前がついているのを嫌がって訴えを起こし認められたそうだ。こんなところに住んでいたんだ、とある種の感慨にふける。