「そもそも主審が“待て”をかけた理由は…」
試合では2分過ぎからガルリゴスの絞め技が始まり、これを永山がこらえてこう着状態とみた主審が「待て」を宣告、この時点で攻防は即座に中断しなければならなかったが、なぜか中途半端に続いた。
これについて全日本柔道連盟(全柔連)公認A級ライセンスの審判員であるAさん(59)は「『待て』がかかった瞬間から、球技にたとえればボールデッドの状態で、インプレーではなくなります。
ですから主審は即座に攻撃を中断させて両者を分けなければいけません。今回、責めを負うべきはあくまで審判であり、選手が批判や中傷にさらされるのは全くの筋違いです」と即答した。
永山は青い柔道着、ガルリゴスは白い柔道着で試合に臨んだ。Aさんに問題になった時間帯の攻防と審理の流れをクローズアップして整理してもらった。
①青の投げ技が効果なく、後ろについた白が絞め技へ移行
②もともと寝技に自信のある白は「袖車(絞め)」を試みながら、抑え技も併用しつつ青をコントロールしようとする
③襟を極められた青は「絞め」をこらえながら、白の抑え込みを防御するという少々複雑な動きを強いられる
④「絞めが極まらず」かつ「抑え込みに至らず」、これ以上進展がないと判断した主審が「待て」を宣告
⑤「待て」の宣告が聴こえたか否か不明だが、白は絞めを緩める動作がなかった
⑥主審、白の顔を覗き込む形で再度「待て」を宣告しようやく解放
⑦白すぐに起き上がるが、青は仰向けでしばし放心状態
⑧「失神した」と判断した主審が「一本」宣告。直後に青の意識回復。この時、第三者による蘇生動作はなく、青が自発的に立ち上がる
⑨白に対して勝ち名乗り
⑩青、畳から降りることをよしとせず「落ちていない」「待ての最中ではないか?」など「一本宣告は無効」としばしアピールするも判定覆らず
「ポイントは④です。このまま攻め続けても『落ちそうもない』と見極めたからこそ、寝姿勢を解除して立ち技から再開させようと『待て』をかけたわけです」(Aさん)
しかし、④から⑥に至るまでの時間は永山選手の意識を朦朧とさせるに十分なほど長く、最終的には「片手絞め」での一本負けという主審の判定がくだされ、誤審を避けるために導入されたジュリー(審判委員)制度やビデオ判定も活用されなかった。
「一本を宣告する前に、ジュリーに判断を仰いだりビデオ判定を使わなかったことが二つ目のミスリードになりました。グレーな判定をなくすために、ジュリーやビデオを活用してクリアにしていきましょうという流れになっているのに、なぜそうしなかったのかというモヤモヤは関係者だけでなく、観客や視聴者にも残ります」(同)