人が怖くて仕事が続かない
「働かざる者、食うべからず!」
母親にそう言われ、アルバイトを始めたのは20代半ばのころだ。
「無理やり外に出た一番の動機は、住む家がなくなるという危機感です。働かなかったら家を追い出すと言われたから、親の言うことをとにかく聞かなきゃって。ホントに言いなりでしたね。
もちろん、社会復帰できるならしたいっていう気持ちもありました。ずっとひきこもっていて孤独が本当にツラかったから。ちゃんと大学に行ってれば、お母さんもそんなに怒らなかっただろうし、仕事に就いていたら自分の好きなこともできたんじゃないかって思ったし……」
泣きながら自転車で近所を走り、店に張り出された求人募集を見て回った。
最初に勤めたのはファーストフード店だ。商品名の書かれた画面をピッピッと押していくだけなので、レジはどうにかこなせた。だが、周りの状況を見ることができず、無駄な動きをするなと怒られて畏縮するばかり。
「作業が遅いと注意されるだけでもビクビクして、さらに人が怖くなっちゃって……」
1年も経たずに辞めて、また家にひきこもった。
しばらく家にいると母親に「働け」と怒られるので、新しいアルバイトを探し求めて自転車をこいだ。
パン工場の製造ラインで、パンをひねり続ける、バナナを置き続けるなどの単純作業もしたが、他人と一緒に作業することが怖くて、すぐ行けなくなった。
校正の仕事をしたときは働き始めて数日でミスをして大泣きしたら、そのままクビになった。他にもカフェ、コンビニ、事務など10か所近くを転々とした。
「ひきこもりになって、外に出されて、ひきこもりになって、外に出されて、ひきこもりになって……という繰り返しだったんで、ゆるやかに自分を壊していったんですね」
ひきこもった原因である「人への恐怖心」が消えていないのに、無理やり外に出て働いたのがよくなかったのだろう。
ついに限界を超えた白石さんは、とんでもない行動をしてしまう――。
〈後編へ続く〉『「なんで死なせてくれないんだっ」自ら包丁でお腹を切ろうとした30代ひきこもり女性の過去からの再生』
取材・文/萩原絹代