ある日突然、起き上がれなくなる

中学卒業後に東京に引っ越し、推薦で受かった私立の進学校に入学した。母親に泣きながらお願いして美容院に連れて行ってもらい、肌を掻かないように我慢して見た目にも気を配った。

夜寝る前におもしろい話を考えて、毎朝、教室に入った瞬間に披露したら、一躍人気者になったそうだ。

「中学の3年間、1人だったから、ずっと周りを観察していたんですね。人気のある子は明るくおもしろい話でみんなを笑わせているとか、嫌われている子はこういうところが嫌われるとか。どうやったら人気が出るか考えて、芸人さんみたいにおもしろいことや変なことをやったら、同学年みんな友達かっていうくらい友達が増えたんです」

孤独だったからこそ、人一倍周りをよく見ていたという白石さん(仮名)
孤独だったからこそ、人一倍周りをよく見ていたという白石さん(仮名)

ところが、1年生も後半になると、一人の女生徒にこんな悪口を言われる。

「ちょっと調子に乗ってない?」

その一言で、白石さんは中学時代にいじめられたトラウマが一気によみがえり、布団から起き上がれなくなってしまう――。

「人への恐怖心に蓋をして明るい私を演じてたんですけど、すごい努力して無理して友達を作っていたので、もういっぱいいっぱいだったんだと思います。たぶん、その言葉でちょっと蓋が開いて、体が動かなくなっちゃったんですね。

本当に石みたいに動けなくなって、自分でもびっくりして。なんで体が動かないの、なんで学校行けないのって。パニックですよ。それから10年以上におよぶ長いひきこもり生活が始まったんです」

写真はイメージです。画像/shutterstock
写真はイメージです。画像/shutterstock

母親は毎朝、動けない娘のほっぺをペチンペチンと叩き、「起きて、起きて。聞いているんでしょ」と言って耳を引っ張った。2階の部屋から階段の下まで布団ごと引きずり落ろされたこともある。

「私の将来が心配だったというのもあると思うんですが、母親はひきこもりが恥ずかしくて許せなかったんだと思います。私もうまく言葉で説明できなかったから、『さぼりたいだけでしょ』って言われて。午後になるとゆっくり動けるようになったので、よけい怠けてると思われたみたいですね」