「ひろゆき君」と結婚した理由
14歳という若さで摂食障害を患ったという西村さん。それには、あるきっかけがあった。
当時、シングルマザーだった実母が自宅に彼氏らしき人を連れ込み、バスローブ姿でいるところを出くわすシーンだ。西村さんは当時を以下のような言葉で回想する。
「いい歳をしたおっさんおばさんのあられもない姿を見せられると、ただひたすらげ
んなりするのである」
そして、むしゃくしゃした気持ちの反動でコンビニで大量に買い込んだお菓子を一気に食べ尽くし、胃から逆流するお菓子類を見ると「不思議な爽快感があった」と言う。
西村さんはその多感な少女時代から「ひろゆき」と出会った27歳の頃まで摂食障害を抱えていた。
「それまで付き合ってきた彼氏には自分の摂食障害のことは言えませんでした。後ろめたかったし、恥ずかしかったからです。でも、ひろゆき君にはなぜか自然に、あるときふと話せたんです。
ひろゆき君は驚いた様子もなく、ときどき頷きながら聞いてくれました。どこの病院に行くつもりなの?とか、今はどんな症状なの?と淡々と聞いてくれる姿勢に、目の前の現実を変える力と勇気をもらったように思います」
ふだん、私たちがネットやテレビなどで目にする、歯に衣着せぬ物言いと皮肉たっぷりの“論破王”の姿からは想像もつかない優しげな対応。西村さんにとって付き合いたてのひろゆきは「まさに王子様のようだった」と話す。
「王子様エピソードは本にも書きましたが、私にとってはやはり摂食障害を治していく上で、ひろゆき君は欠かせない存在でした。
それまで、私にとって食事は楽しむ時間ではなく、ただひたすら詰め込んでストレスを吐き出す手段となってしまっていたのですが、彼との食事の時間は、なによりお話ししながら食事をする楽しさを思い出させてくれました。付き合いたての頃から今も、よく一緒にご飯を作っています」
アフリカ焼けおじさんと道で会った牛と🐂 pic.twitter.com/RqzJOdGrYT
— 西村ゆか『転んで起きて』2/22発売、『だんな様はひろゆき』原作 (@uekky) August 23, 2023
複雑な家庭環境で育った経験のある人が「結婚しない」を選択するケースはままあるが、西村さんが「ひろゆき」と結婚したのはなぜなのか。
「自分が生まれた環境が悪かったから家族は作るまいという気持ちと、だからこそ自分で幸せな家庭を持ちたいという思いが半々でした。結婚に対しての憧れがある一方で、冷めた目でも見ていました。
それでもひろゆき君と結婚したのは、出会った時から“この人と別れることはないんだろうな”と思えたからだし、ウェディングドレスが着たかったからです」
西村さんが明かす「夫育て」の成果
しかし、ひろゆきは結婚に対しまったく興味のないタイプで「子供がいるわけでもないし、お互い好き合ってるんだから十分じゃない」という反応だったという。
「制度としての結婚よりも、お互いの友達の前で“ずっと一緒にいましょうね”って誓い合う約束の場を設けたかったんです。なので『私は入籍をするより式を挙げたい。それが私の願い』みたいな話をしたら、ひろゆき君が『わかった、式を挙げよう』と。
私は式を挙げられてめちゃくちゃ満足だったし、ひろゆき君もできる限り私の願いを叶えたいと思ってくれる人なので、文句は何も言いませんでした」
ただ、日常生活の中でのひろゆきは、「感謝の気持ちを伝えたり、謝ったりすることがまるでできない人なんです」と西村さんは言う。
「ごめんと言えば済むのに、謝らないために話がややこしくなることが多々あるんです。私に嫌なことをしておいて『嫌だと思わなければいいじゃん。嫌なことが減ったほうが人生楽しいよ』なんて言い返してくる。
それでも私が言い続けた効果なのか、最近は“ごめんなさい”ではないんだけど、私のことを気遣ってくれているんだろうと思える行動は随所に見られるようになりました」
ちなみに、その“気遣い”とはどんなものなのか。
「ひろゆき君は私よりも頻繁に日本に帰ったり、海外に行くこともあるんですが、その前にはスーパーでミネラルウォーターやトイレットペーパー、米など、重かったりかさばるものを買い出しに行ってくれます。
言葉ではなくても、そういう行動を観察していると、気遣ってくれているんだなと思います。あと、私はコーヒーが好きなのですが、一緒に出かけたときに『どっか行きたいカフェないの』と聞いてくれたり。逆に旅先などで『この近くに美味しいカフェあるらしいよ』と連れ出してくれることもあるんです」
ぶらり珈琲タイム☕️❄️☕️ pic.twitter.com/tld4NhQ8xJ
— 西村ゆか『転んで起きて』2/22発売、『だんな様はひろゆき』原作 (@uekky) February 22, 2023
昨今は「夫育て」などという言葉もあるが、西村さんも夫育てをしてきたのだろうか。
「家事面ではずいぶん育てました(笑)。約20年も生活をともにして、料理やお皿洗いなどはだいぶできるようになりました。
特にステーキを焼くのは得意で、低温調理器に6時間くらいかけた肉を熱々のフライパンで焼き目をつけて、さらにソースも作ったり。最近ではチキンビリヤニ(インドの炊き込みご飯)がブームみたいでよく作ってくれます」
妻のYouTubeチャンネル開設にひろゆきの反応は?
西村家では、家事分担は一日交代制なんだという。
「フランスに来てからは私が体調を崩すことが多くなったんです。それで、ひろゆき君が家事をしてくれるようになり、やがて私が復活してきたら、一日交代制にしようと提案してくれました」
本を読む限り、幼少期から20代にかけての西村さんは、とても生き辛かっただろうと想像できる。今の「ひろゆき」との暮らしぶりはどうなのか。
「今は生き辛さはまったくないですね。ただ、体調は悪いです。40歳過ぎで発覚したシェーグレン症候群という難病によって、唾液腺の腫れと痛みがあって。そのせいで年末から慢性胃炎、逆流性食道炎と併発して、さらに結膜炎や気管支炎にもなってしまったんです。
体調的には最悪なんですけど、そこばかりにフォーカスしてしまうとメンタルも悪くなるので、なるべく気を紛らわして生きています」
そんな中、書籍の発売に合わせてYouTubeチャンネルを開設した。
「本でも書いた摂食障害や子供時代に生き辛かったことを、同じような悩みを抱えている人と話したりしていきたいなと。当面の目標としては、ひろゆき君みたいに生配信にチャレンジしたいです」
今後はひろゆきの配信部屋から、西村さんがビール片手に配信なんてことも、あるのだろうか?
「どうでしょう。ひろゆき君には何も相談せずに開設したんで。ひろゆき君は、おそらく私にはXもやってほしくなかったろうし、不特定多数の人に向かって喋ってほしくもないと思うんです。でも、始めるよって言ったら『ほへー』って言ってました」
ふたりが現在暮らすのは愛の国、フランス。ひろゆきは西村さんにどのような愛情表現をしているのだろうか。
「あの人からはないかな。でも、ひろゆき君が日本に帰ったり、どこかに出かけるときは、ハグはしますよ。私が“いってらっしゃい”って感じで」
今後もフランスで暮らしていくのかと問うと「そうとは決めてない。でもフランス、意外とお気に入りですからねー。どうでしょう」と笑う。
書籍には西村さんの壮絶な幼少期の経験が描かれているが、読後感は決してどんよりではない。淡々と綴られている様子、なにより、あの“論破王”ひろゆきの意外にも優しい一面が垣間見られ、あらためて結婚、家族っていいなと思える。
文/河合桃子 撮影/池上夢貢