「ひろゆきブーム」を象徴する2冊の対談本

「ひろゆき」とは、1999年に開設された日本最大級の匿名掲示板の創設者であり、現在は英語圏で最大規模の匿名掲示板の管理人でもある西村博之氏の愛称です。「それってあなたの感想ですよね」などの発言で「論破王」としてYouTubeからテレビまで幅広いメディアで人気を集めています。

そんなひろゆきが今年、2ヵ月連続で対談本を刊行しました。1冊目は、元日本マイクロソフト社長の成毛眞との共著『考えて生きる 合理性と好奇心を併せもつ』(集英社)。

もう1冊が、実業家・経済学者であり、かつて小泉内閣の経済財政政策担当大臣などを歴任した竹中平蔵との『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか』(集英社)です。

ひろゆきという存在は、人をくったような態度でメディアを賑わせ、賛否両論を巻き起こすことで知られています。しかし、このふたつの対談本を読むと、その飄々とした顔の裏側に「社会の仕組みを変えたい」と考えている側面があることがうかがえます。

「論破王」ひろゆきが、実は論破以上に得意にしていること_1
『考えて生きる 合理性と好奇心を併せもつ』集英社 880円(税込)

成毛との対談でひろゆきは、議論の仕方や読書について親しく語っています。ただ、投資や人間関係の作り方を語る場面では、ひろゆきと成毛それぞれの「一筋縄ではいかない」クセのある人物像が伺えます。

成毛といえば、1980年代に日本マイクロソフトの社長だった人物。1980年代は、インターネットどころかパソコンすら普及していなかった時代。誰もがスマホを持ち、SNSを利用するのが当たり前になった現代のような社会が到来するなんて誰も想像していませんでした。

一方のひろゆきは、1990年代に自身が二十代前半で立ち上げた掲示板が国内最大規模に発展、それ以前には存在しなかったコミュニケーション空間を現出させた張本人。成毛とひろゆきには、「常人が知ることのない世界」をそれぞれに眺めてきたという共通点があるのです。

その共通性ゆえか、ひろゆきと成毛の対談はなごやかな雰囲気で進行します。それぞれに自己中心的に、ときに傲慢に「本当かな?」と思わせるような放言も交えつつ、「未来の日本のエネルギー問題」などのスケールの大きいテーマについても議論していきます。

ここでは相手を論破することよりも、状況の改善を阻害するボトルネックを見つけて解決する方法を見つける方が本当は得意だというひろゆきの「論破王」とは別の、もうひとつの顔を見ることができるはずです。