いいたいことをいわない人
上司に従わなければ、その上司からよく思われないだけでなく、同僚からもよく思われないかもしれない。そうなることを恐れる人は、上司のいうことに納得できなくても、上司に逆らえない。異議を唱えなければ共同体の和や秩序は乱されない。これも偽りのつながりである。上司や同僚によく思われたい人がこの偽りのつながりに身を委ねる。
共同体に所属している、共同体の中に居場所があると感じられることは人間の基本的な欲求であるが、所属の仕方は人によって違う。親に逆らわない、多数派につくという仕方で家庭や職場という共同体に所属しようとする人がいる。そのような人はいいたいことがあってもいわない。共同体に所属していなければ不安を感じるので、波風を立ててそこから追い立てられることを恐れるからである。
しかし、所属感は本来大きな共同体に所属して安心することではない。安心したいがために、共同体に所属していると感じたい人は共同体に依存することになる。
依存的な人は共同体がつながりを求めてくれば容易に応じる。つながりが強制されているとわかる時はまだしも安全である。強制に抵抗するのは難しいが、強制する人が見えている。しかし、心が弱っている時などは、他者とどんなつながりの中にあるのかを見極めることが難しく、自分がつながることを強制され、そのつながりに依存していることに気づかないことがある。
文/岸見一郎
写真/shutterstock