いいたいことをいわない人

上司に従わなければ、その上司からよく思われないだけでなく、同僚からもよく思われないかもしれない。そうなることを恐れる人は、上司のいうことに納得できなくても、上司に逆らえない。異議を唱えなければ共同体の和や秩序は乱されない。これも偽りのつながりである。上司や同僚によく思われたい人がこの偽りのつながりに身を委ねる。

我が子を「頭のいい子」とほめることの罪…相手に「属性」を与えることが強制や命令となって関係性を悪くする危険_4
すべての画像を見る

共同体に所属している、共同体の中に居場所があると感じられることは人間の基本的な欲求であるが、所属の仕方は人によって違う。親に逆らわない、多数派につくという仕方で家庭や職場という共同体に所属しようとする人がいる。そのような人はいいたいことがあってもいわない。共同体に所属していなければ不安を感じるので、波風を立ててそこから追い立てられることを恐れるからである。

しかし、所属感は本来大きな共同体に所属して安心することではない。安心したいがために、共同体に所属していると感じたい人は共同体に依存することになる。

依存的な人は共同体がつながりを求めてくれば容易に応じる。つながりが強制されているとわかる時はまだしも安全である。強制に抵抗するのは難しいが、強制する人が見えている。しかし、心が弱っている時などは、他者とどんなつながりの中にあるのかを見極めることが難しく、自分がつながることを強制され、そのつながりに依存していることに気づかないことがある。


文/岸見一郎
写真/shutterstock

「原則出社」にしたい上司の本当の理由

つがらない覚悟(PHP研究所)
岸見一郎
我が子を「頭のいい子」とほめることの罪…相手に「属性」を与えることが強制や命令となって関係性を悪くする危険_6
2023年12月16日発売
¥1,100
256ページ
ISBN:978-4569856216
私たちは子どもの頃から「人間関係は大切にしよう」と教え込まれ、つながりを結ぶことが強制されることもある。しかし、人とつながるとはどういうことなのかがよく理解されておらず、他人との「絆」が依存・支配関係になってしまうことも多い。

「私」を失わないためには孤独を恐れてはいけない。私たちにはつながらない覚悟が必要なのだ。望ましくない人間関係を捨てて、偽りのつながりを真のつながりに変えるための考え方や方法を哲学者が語る。
amazon