「宗教2世問題」とは、親から子どもへの「虐待問題」
子どもの頃に、両親から自己肯定感を満足に得られずに成長すると、自分を大切にできない大人になってしまうのだろうか。そして親になったとき、同じように、自分の子に自己肯定感を満足に与えられないのだろうか。
居酒屋の仕事とお客さんが第一で、家庭を顧みない父親と、その寂しさを埋めるためか、宗教にのめり込む母親のもと、ネグレクトに近いような状況で成長した現在30代の女性の事例を紹介する。
2022年7月の安倍元首相の銃撃事件は、世間が宗教2世問題に注目するきっかけとなったが、そのときに私(著者)は微かな違和感を感じた。
宗教2世は、自分の意志に関わらず、親が信仰する宗教に入信させられているケースが多い。
ある程度成長してからやめたいと思っても、宗教団体自体にやめにくいルールや空気がある場合だけでなく、その人自身の生活や人間関係、考え方などに宗教が深く根ざしていることがあるため、やめてもやめなくても宗教に悩まされ続ける宗教2世は少なくないようだ。
「宗教2世問題」とは、「虐待問題」ではないのか。新しい言葉で本質が見えにくくなっているのは、「ヤングケアラー」や「きょうだい児」なども同様だ。
さも新しい問題のように取り上げられているが、上から貼られた名札を剥がせば、どれも家庭という密室で古くから起こっている、親から子どもへの「虐待問題」に端を発しているのではないか。
そう思っていた頃に出会ったのが、中部地方出身、関西地方在住の時任和美さん(仮名・30代)だった。
関西地方の郊外にあるカフェで待ち合わせると、彼女はライトグレーのカットソーに、紺地に小花柄の涼し気なフレアスカートで現れた。明るい色に染めた鎖骨辺りまである髪を耳にかけながら、彼女は挨拶して席に座った。
母方の祖父母は男の子を女の子より優遇する、いわゆる〝長男教〟だった
(時任さんの)父方の祖父は、父親が子どもの頃に蒸発しており、祖母はそれをきっかけに宗教に入信。そのため父親も父親の兄と弟も宗教が大嫌いだった。だから時任さんの母親が宗教に入信して以降、疎遠になったのだ。
父親の幼少期のことをあまり知らない時任さんだが、父親の両親が3人兄弟の次男だった父親のことを「一番出来が悪い子」と言っていたということは知っていた。
一方、母親のきょうだいは現在、兄と姉、弟がいるが、実は母親が生まれる前、一番上に姉がいた。母方の祖父母は、長女をとても可愛がっていたらしいが、4〜5歳の頃、伊勢湾台風で亡くしてしまっている。
母方の祖父母はよほど長女を亡くしたのがショックだったのか、孫である時任さんにまで、「あの子が生きていたらなあ……」と何度も話して聞かせた。
加えて母方の祖父母は、当時としてはあまり珍しくないが、男の子を女の子より優遇する、いわゆる〝長男教〟だったようだ。
想像するに、〝長男教〟である祖父母は、男の子たちは大事に育てたのだろう。
長女が亡くなったとき、すでに生まれていた次女はそこまで比べられずに済んだが、亡くなった後に生まれた母親は、ことあるごとに亡くなった姉と比べられ、下に見られて苦しんでいたのかもしれない。