「強いストレスや緊張だけでなく、不安や不快感も」
「火の玉」という言葉を使った岸田首相だったが、もはや泥船ともいわれる岸田政権の実状は「火だるま」ではないか。ネットやメディアもそういう声であふれたが、そう思わせてしまうだけの要素がこの会見にはあった。
この日、岸田首相は黒っぽいダークグレーのスーツにグレーと白のレジメンタルストライプのネクタイを着用。グレーは自己主張せず、控えめで落ち着いている印象を与えるため、謝罪会見などでよく用いられる色だ。
登壇した際も、「国民から疑念を持たれるような事態を招いているのは極めて遺憾」と述べながらも、表情はいつもと変わらない。それでもストレスは強かったのだろう。言葉と言葉の合間に何度か大きく息を吐く。
「自民党の体質を一新すべく、先頭に立って戦ってまいります」と述べたときは、一瞬眉間にシワが寄り右頬がぴくっと動いた。その表情から自民党の体質と戦うことへの緊張感が感じられた。
岸田首相は話しながら文節を区切るときに、口をしっかり閉じるクセがある。ストレスが強いほど口を堅く閉じて唇を引き締めるだけでなく、口先、特に上唇の上を膨らませ、唇を隠してしまう。前日の12日、報道陣による囲み取材に答えていた際も口をギュっと閉じ、上唇の上を膨らませていたが、この日は今までになく、何度もそこを膨らませた。強いストレスや緊張だけでなく、不安や不快感なども感じていたのだろう。
続けて「これが自分の務めであると思い定めています」と述べると、今度は一瞬、頭を軽くのけ反らせた。この問題に取り組むことがいかに大変なのか、どれだけ時間がかかるのか、首相自身がよくわかっているのだ。
だが「国政に遅滞をきたすことがないよう、全力をあげなければなりません」と述べ始めたあたりから、語尾から力が抜けていく。その後「国民の信頼なくして政治の安定はありません」というときも口を堅く結び、奥歯をかみしめたように見えたが、言葉に力がなく言い切れない。
政治資金をめぐる問題に「正面から取り組んでまいります」「火の玉となって取り組んでまいります」と表現は強いが、声は弱く視線も下がり、気が抜けた印象だ。
「国民の皆様のご理解をお願い申し上げます」では声のトーンがいちだんと下がり、視線まで落としてしまう。国民にお願いしたい気持ちが視線を落とさせたのかもしれないが、このようにメリハリのない言葉と話し方では、首相の気持ちはまるで伝わらなかった。