#1 まるでアル中のように酒を求め、日々深く酔っぱらう椎名誠と福田和也。相まみえないふたりの共通点

怪物に出会った日

井上尚弥は、日本ボクシング史上もっとも完成された王者である。この評価に、正面から異を唱える者は少ないだろう。では、もっとも完成されたプロボクサーの条件とはなにか。内山高志(スーパーフェザー級/元世界王者)は言う。

〈すごいのは普通にワンツーとかで倒していること(…)普通ならワンは弱めです。そのほうがより速くツーであるストレートが打てるからです。ところが尚弥はワンが強い。ズドンとくる。次の瞬間に強烈な右ストレートが飛んでくる(…)世界のトップボクサーには左フックだけめちゃめちゃ強いとか、偏っている人も少なからずいるんですけど、尚弥は本当にオールラウンダーです。左フックでも倒すし、ボディブローでも倒す。さらに距離をキープしながらアウトボクシングできるし、近づいてインファイトもできる〉【1】

山中慎介(バンタム級/元世界王者)の見解も内山と同じだ。〈すべてのパンチが平均よりだいぶ上を行っていますよね。ほとんどすべての種類のパンチで相手を倒してます〉【1】。

では井上は、並外れた攻撃力を持つがゆえに完成されているのか、といえば、それも正確ではない。

主要4団体王座統一戦が決まり、記者会見する世界スーパーバンタム級2団体王者の井上尚弥 写真/共同通信
主要4団体王座統一戦が決まり、記者会見する世界スーパーバンタム級2団体王者の井上尚弥 写真/共同通信
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かつてアンタッチャブルと綽名された川島敦志(スーパーフライ級/元世界王者)によれば、井上のディフェンスには穴がなく〈ノーガードで相手のパンチをよけるとか、全然できると思います。できるけど必要がないからやらない〉【1】。

要するに、井上尚弥は何でもできるということだ。