宮崎勤・元死刑囚の自室
宮崎勤・元死刑囚の自室

マスコミ的に“おいしいブツ”がまったくなかった

母屋の裏に、渡り廊下でつながった子供部屋があった。部屋は3室あり、西側の角部屋が勤の部屋だった。父親の了解を得た記者たちは、勤の部屋に足を踏み入れた。続々と取材陣が集まっていた。

大型テレビと4台のビデオデッキ。8畳の部屋の窓と壁がビデオテープで覆いつくされていて薄暗い。『リボンの騎士』『ゲゲゲの鬼太郎』など、さまざまなジャンルのアニメ作品が並んでいた。

記者たちのあいだでビデオテープの数を「2000本ぐらい」と見積もったが、その後、6000本近くあったことが判明した。

敷きっぱなしの布団の甘酸っぱい臭気が鼻をついた。積み重ねられた段ボール箱には「メンコ」「カード」と書かれていた。のちに「オタク」と表現されたが、わたしは26歳にもなる男の収集の子供っぽさに唖然とした。

宮崎勤・元死刑囚の自室
宮崎勤・元死刑囚の自室

床には少女雑誌やビデオ雑誌などが多数散乱し、その下にエロ漫画『若奥様のナマ下着』があった。それをひょいと抜き出したテレビカメラマンは、散乱した雑誌の上に乗せ撮影した。

性犯罪者の“いい画”を撮るための演出である。マスコミ的に“おいしいブツ”が、ほかにはまったくと言っていいほど部屋にはなかったのだ。

唯一、幼稚園の入園案内パンフレットがロリコンを連想させたが、部屋の中には女性が写っているテニスクラブのパンフレットもあった。この男は幼女だけでなく、“オンナ”に興味があるのだ、とわたしは確信した。

工場にはドイツ製ハイデルベルクの印刷機や活版印刷機があり、インクの油っぽいにおいが漂っていた。勤が生まれる前から働いているという工場長に話を聞いた。

「仕事中に『この事件の犯人は極刑だな』と勤くんに話しかけたら、なんの反応もなく聞き流していた。彼が関係あるのが、信じられない」

わたしは「このなかに勤が写っているか」と宮崎家の家族写真を工場長に確認したが、「いない」と言下に否定された。