2時間で19人を殺した暴力性の背後にあるもの

2016年7月26日に起こった相模原障碍者施設殺傷事件から、今年で7年が経つ。相模原市の知的障碍者施設「津久井やまゆり園」で、職員を含む26名の入所者に重軽傷を負わせ、入所者19名を殺傷した元職員による大量殺人事件。

殺人事件の犠牲者数としては戦後最悪とされたこの事件は、社会に大きな衝撃を与えたにもかかわらず、その極悪性に対して、政府や世間の反応は薄いように感じられる。

事件現場となった津久井やまゆり園につくられた「鎮魂のモニュメント」(写真/共同通信社)
事件現場となった津久井やまゆり園につくられた「鎮魂のモニュメント」(写真/共同通信社)
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犯人(事件当時26歳・元施設職員)には2020年3月、裁判員裁判で死刑が言い渡された。犠牲者の氏名は一部を除き大半が未だ公表されておらず、刑事裁判の公判では「刑事責任能力の有無・程度」が最大の争点になった。

事件から7年後の2023年7月、大阪の東淀川駅から徒歩3分の場所にあるメタモルホールを訪ねた。

「身体障碍者の障碍自体を表現力に転じ、未踏の美を創り出すことができる」という主宰者・金滿里さんの着想にもとづき、パフォーマンスグループ「態変」は1983年に創設された。美意識、世界観、人間観を根底から揺さぶる芸術を打ち出し続けている。健常者とは異なる重度障碍者たちだけで構成される演出は、説明されることに慣れてしまっている観客にとっては難解かも知れない。

しかし、確かなことは、滿里さんの探求し続ける身体表現のなかに、私たちが手放しかけている人間への信頼感と、限りない可能性が感じ取られるということだ。
 
滿里さんは7歳から17歳までの十年間を障碍児施設で過ごし、介護の現実を目撃してこられた。そこに収容される子ども、職員、介護の在り方を見つめ、障碍者に対する圧倒的な差別の存在を知る。

その後、障碍者解放運動に出会い、主体的な自立生活、障碍者自身による自己主張運動、組織分裂の挫折を経て、人間の存在価値を問い続ける「舞台表現」という広大な地平に踏み出す。

毎年7月を『魔の7月』と呼ぶ滿里さんは、事件に対して強い思い入れを持ち、重度障碍者の立場から事件の風化を一蹴する。

「犯人の暴力性は理解できません。だって、施設に押し入った僅かな時間に四十何人も刺傷して、19人を殺した。私なんか身体表現者で、障碍者を常に見ているわけで、ほんまにあんなことがわずか2時間足らずで出来るもんなん?と思う。 

犯人は、世間一般の総意として虐殺を実行してやったんだ、本当のところでは誰もが障碍者を殺したほうがいいと思ってるくせに、って高を括ってる。だからといってそんなにたくさん瞬時に人を殺せるもんやろか」