口には出さない習近平の企み
手嶋 確かに、社会主義陣営の〝兄弟国〟といわれた1950年代ですら、中ソは旧満州の権益などを巡って水面下ではかなりの緊張を孕んでいましたから。社会主義という床で共に休んでいても、同じ夢など見たことはないと思います。
佐藤 ただ、アメリカという強大な敵を前にすれば、「核心的利益」を守り抜くために、進んで手を握るのでしょう。
手嶋 中国にとっての「核心的利益」とは、いうまでもなく台湾です。台湾の独立を阻んで、統一を果たすことにほかなりません。翻って、ロシアにとっての「核心的利益」とは何か。佐藤さんが本書で何度も指摘してきたクリミア半島とドンバス地方、さらには今次の戦いで奪い取ったウクライナの4州でしょう。
佐藤 そう思います。従って、習近平は、口に出して「プーチンの戦争」を支持はしないけれど、ロシアのウクライナ占領地の既得権を認め、しかるべき対応を取る用意がある、ということでしょう。
手嶋 ウクライナの地で戦うロシアと台湾有事に備える中国にとって、超大国アメリカは前途に立ちはだかる最大の障壁です。プーチン政権はウクライナでの厳しい戦局を凌ぐため、一方の習近平政権は台湾海峡でさらなる攻勢に出るため、アメリカの力を少しでも殺いでおきたいという利害で一致しています。
佐藤 まさに〝敵の敵は味方〟なのです。
手嶋 習近平の言う、核心的利益を「互いに強く支え合う」というくだりは極めて重要です。ウクライナの戦いと台湾海峡危機が、地下水脈を介して相連動していることを意味しています。日本では連日のように台湾海峡の軍事情勢が報じられながら、青の都で行われた中ロ首脳の会談について精緻な分析が少しも行われていない。私たちの懸念はまさにそれなのです。