反スパイ法、反LGBT法…ロシアを追随した政策が相次ぎ成立

ワイン発祥の地のひとつとして知られ、郷土料理「シュクメルリ」が大手牛丼チェーンやコンビニで販売されるなど、日本でその魅力が知られつつあるジョージア。

いまそのジョージアが大きな岐路に立っている。EU加盟を目指すのか、親ロシア路線を選ぶのか。ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく3年。その余波が近隣国のジョージアにも深刻な影響を与えている。

EU加盟はジョージアにとって長年の悲願だった。背景には、2008年のロシアとの国境沿いにある南オセチアとアブハジアへの軍事侵攻(ロシア・ジョージア戦争)という痛ましい出来事がある。ロシアは「親ロシア系住民の保護」を名目に南オセチアとアブハジアへ軍を派遣し、独立を一方的に承認。ジョージアは領土の約2割を失った。

ジョージアの首都トビリシでは、街のあらゆる場所でウクライナとジョージアの国旗が描かれている。「ジョージアの領土20%がロシアに占領されている」と書かれたものも
ジョージアの首都トビリシでは、街のあらゆる場所でウクライナとジョージアの国旗が描かれている。「ジョージアの領土20%がロシアに占領されている」と書かれたものも
すべての画像を見る

さらにウクライナ侵攻がジョージア国民の危機感を高め、EUおよびNATO加盟を目指すようになった。2023年にはEU加盟候補国として承認され、希望が膨らんだが、それも束の間だった。

翌年、与党「ジョージアの夢」のコバヒゼ首相がEU加盟交渉の中断を発表。市民の期待は裏切られ、怒りが爆発したのだ。

ジョージアの首都トビリシにある議会前のルスタベリ通りには、毎晩市民が集まっていた。「私たちはロシア人ではない! EUの一員だ!」と市民が叫ぶ。当時は治安当局との衝突で多くの逮捕者が出るほどの騒動だったという。

現在でも夜が更けると群衆は数千人規模に膨れ上がり、議会に向かって「裏切り者!」と怒りの声が響き渡る。

議会への侵入防止のために設けられた鉄の壁に向かってコンクリート片を投げつける抗議者
議会への侵入防止のために設けられた鉄の壁に向かってコンクリート片を投げつける抗議者

この混乱は突然起きたものではない。昨年、外国資金を受ける団体を規制する「反スパイ法」や、性別適合手術やLGBTに関する宣伝などを禁止する「反LGBT法」が成立した。いずれもロシアの政策を追随した内容だ。

さらに昨年10月の議会選挙では、与党が勝利を宣言をしたものの、選挙監視団から不正の疑いが指摘され、親欧米派のズラビシビリ大統領(現在もカベラシビリ大統領を選出する議会選挙が行われた際に不正があったと主張。議会選挙のやり直しを求めている)はロシアの影響があったと選挙結果を非難した。この議会選挙を受けて再任されていたコバヒゼ首相は「28年までEU加盟交渉の開始を議題にしない」と発表し、事実上の交渉凍結とみられる。

国民に抗議行動を呼びかける親欧米派のサロメ・ズラビシビリ前大統領。市民から人気があり、サロメというファーストネームで呼ばれている
国民に抗議行動を呼びかける親欧米派のサロメ・ズラビシビリ前大統領。市民から人気があり、サロメというファーストネームで呼ばれている

こうした国内の政治に対して、国民の怒りがついに頂点に達した。市民のデモは治安部隊との衝突に発展し、催涙弾や放水が使用され、多数の逮捕者と負傷者を出した。現在も与党は「EU加盟を目指す方針は変わらない」と主張するが、真意かどうか疑念は払拭されていない。