プーチンの研ぎ澄まされた政治感覚

佐藤 当時の状況で、プーチン大統領の振る舞いを公然と支持するというのは、かなり勇気の要ることだったはずです。(笑)

手嶋 そう、プーチンの筋の悪い戦争に明からさまな賛意を示すわけなどありません。中国は、建前としては、国連重視なのですから、国連憲章に反するような行為に賛成するわけにはいきません。しかし、実際の会談では、きわめて重要なやり取りがなされていました。

ロシアのプーチン大統領
ロシアのプーチン大統領

中国外務省が明らかにしたところでは、習近平は「互いの核心的利益に関わる問題では強く支え合っていきたい」と述べていました。プーチンはここを勝負どころと踏んだのでしょう。「我々は『一つの中国』という原則を厳守する」と応じ、習近平の心臓を鷲づかみにしてみせたのでした。習近平も満面に笑みを湛(たた)えて手を差し伸べたといいます。

佐藤 「一つの中国」の原則を支持するではなく、厳守すると言ったのですから、プーチンの政治感覚がどれほど研ぎ澄まされているか、分かろうというものです。

手嶋 「一つの中国」の原則を厳守するとは、つまるところ、「台湾の独立を認めない」という盟約です。習近平は「いかなる国家も台湾問題で裁判官となる権利はない」と付け加え、アメリカが自国の核心的利益に介入することを断じて許さないという姿勢を示しました。これが、サマルカンドで中ロの首脳が取り交わした約束です。日本のメディアが報じた「終始冷ややか」という内実が全く違っていたことが分かりますね。

佐藤 中ロは「同床異夢」という報道もありましたね。中ロの首脳は、対米共闘をめぐる結束で距離が埋まらず、双方ともアメリカに対抗心を燃やしているが「同床異夢」だという分析をしています。両国は長い国境を接して対峙しているため、〝蜜月〟などほんのうわべに過ぎないと言うのでしょう。