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カギを握る「台湾の半導体」

佐藤 アメリカが台湾政策を意図的に転換させたというのは、非常に重要な指摘です。私はそこには、中国、台湾の変化を見据えたうえで、時代に即した外交の幅を作りたいという意図も働いたのではないのかと思うのです。客観的にみて、中国の力がついた。そして、実は台湾も力をつけている。

日本経済新聞編集委員の太田泰彦さんが、『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』という本に書いているのですが、台湾積体電路製造(TSMC)という会社は、他社から受託して半導体を生産するファウンドリーの市場で60%のシェアを占めるばかりでなく、技術力すなわちチップの集積度の高さでも他の追随を許しません。台湾には、他にも有力なファウンドリーが集まっていて、書名にあるように地政学的な存在感が、いや増しているわけです。

台中にある台湾積体電路製造(TSMC)
台中にある台湾積体電路製造(TSMC)
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中国にどれだけ工場が増えたといっても、台湾の半導体がなければ、世界に太刀打ちできる製品はつくれない。アメリカからすれば、もし本当に台湾が「一つの中国」に呑み込まれてしまったら、そのテクノロジーのサプライチェーンから排除されてしまうかもしれません。様々な情報が吸い取られるリスクもあります。

手嶋 現代の産業の〝コメ〟である半導体は、広範なものづくりに絶大な影響を与えているだけではありません。国際政治や経済安全保障にもインパクトを与える戦略物資です。

佐藤 だからアメリカは、「台湾の半導体」を取り込もうと腐心もしてきました。莫大な補助金を出してTSMCの工場をアリゾナ州に誘致したのも頷けます。太田さんの本には、アメリカがいかに半導体を重く捉えているのかが分かる、次のようなエピソードが紹介されています。

「釘が1本足りないため、馬の蹄鉄が駄目になった。蹄鉄一つがないため、馬が使えなくなった……」
米国の第46代大統領に就任してからわずか約1カ月後のこの日、バイデンはマザーグースを引用して半導体サプライチェーンの重要性を強調した。もとの歌詞はこう続く。馬が走れないので、騎士が乗れず、騎士が乗れないので戦いができず、戦いができないので王国が滅びた……。釘とは半導体チップのことだ。
(『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』太田泰彦、2021年、日本経済新聞出版)