よくあるでしょ? 僕らの時代の少女漫画の世界ではよくありましたが、中学とか高校の頃はお節介な奴がいて「誰それちゃんが好きだ」って言うと、勝手に〝誰それちゃん〞のところに行って「○○くんが君のことを好きだと言ってたよ」みたいなね。迷惑なことをする奴がいたと思うんですけど(笑)。そういうことを佐藤監督がやってくれてですね。
 結果、『神々の山嶺』はその場であらためて『餓狼伝』と同じように僕の方から谷口さんに漫画化のお願いをする形となりました。
 でも「なんだ、もっと早く口説けばよかった」と僕は思ったんですけど(笑)、ちょっと勇気が要りますよね。というのは、こういう時って知り合いというのはなかなか言いにくいものなんですよ。何故言いにくいかというと、受けたくない時に断る負担をあちらに与えたくないから。それがお願いする側の立場なんです。「やりたい」と言ってくだされば勿論こっちはOKなんだけど、こっちから「やってくれない?」と言ってしまって、もしも断る場合、その負担を先方に与えちゃいけないというのが、こちらが逡巡する一番大きな理由なんです。
 それがあっという間に解決してしまったんですね。
 集英社の編集者もいたので、そこで連載する雑誌まで決まったと思うんですけれども、多分そういう経緯だったと思います。
 そこで僕はすかさず言ったんです。「谷口さん、ヒマラヤへ行きましょう」と。そうお伝えした時に谷口さんがこう言いました。
「いや……。僕はちょっと苦手なんだよ。高い山へ行って体力を使って登るのが。そうした場所を歩くのもちょっと……」と。
 まぁ頂上を目指さなくても、ヒマラヤの辺りを歩くのも確かに大変なんですよね。
 通常、エヴェレストのベースキャンプまで行くのに最低2週間は期間がないと無理なんです。まぁざっくりと20日間くらい。ゆとりを持って日本を発って向こうに行き、また日本に戻ってのドア・ツー・ドアで22、23日あればベストなんですけれども。
 というのは、そうして時間をかけて高度順応しなければならないので、いくら体力があったとしてもいきなり高度を上げちゃだめなんです。そうしたことは僕の本もお読みになって知っておられたようですので、それで多分、谷口さんは大変だとおっしゃってて。それでも結局行くことになったんですが。
 佐藤監督、寺田克也さんも一緒でした。