“勢い”の小幡 vs“安定感”の木浪⁉

22歳の小幡選手は、肩が強く、送球も安定していることから守備面での評価が非常に高く、盗塁ができるスピードもあります。

これに対し、同じ遊撃手を争う28歳の木浪選手は、小幡選手ほどのスピードはありませんが、打撃・守備ともに安定感があります。

岡田監督は、「打たなくても守ってくれればいい」との思いで、小幡選手を開幕戦から起用したのだと思いますが、いい意味で期待を裏切られたのではないでしょうか。

小幡選手は、守備で期待通りのプレーを見せてくれたのはもちろん、打席に立っても、相手投手に球数を投げさせる、粘って四球を選ぶなど、自分の役割をしっかりと理解しているように感じました。

一方の木浪選手も、さすがというか、開幕スタメンこそ逃したものの、4月8日に初めて先発出場して以降、結果を残し、存在感を見せています。

これは、岡田監督の「木浪がいるから、小幡を開幕スタメンで起用できた」という言葉が生んだ効果と言えるのではないでしょうか。

木浪選手は、開幕スタメンを外れたことで、小幡選手とのレギュラー争いに負けてしまったと感じた可能性があります。

そんな時に、「“安定感”のある木浪選手がいるから、“勢い”のある小幡選手を起用できた」という意味合いの発言を監督がしたと耳にすれば、小幡選手の勢いに陰りが見えた時、必ず自分にもチャンスがくると感じたはずです。

“勢い”の小幡 vs“安定感”の木浪!? 鳥谷敬が見たタイガースの「遊撃手争奪戦」_2
今年2月のキャンプで臨時コーチを務めた鳥谷敬氏に指導を受ける(左から)小幡、中野、木浪

岡田監督が、木浪選手と直接、言葉をかわしたかどうかはわかりませんが、木浪選手のモチベーションを下げさせなかったことは確かです。木浪選手も、監督の意図をしっかりと理解していたからこそ、その日に向けて準備を続け、自分の順番がきた時に、結果を残せたのでしょう。

小幡選手も、試合に出ていない期間は不安だと思いますが、次のチャンスが自分に巡ってきた時に、しっかり結果を残すという気持ちで、まずは1軍の雰囲気とスケジュール、環境に慣れることが、レギュラーとして活躍するための第一歩だと思います。

自分がプロ野球選手として1年間を過ごす中で、最も大変だったのは睡眠時間を確保することでした。毎日8時間は睡眠時間にあてたいと思っていても、ナイターの翌日がデーゲームの場合などは、どうしても睡眠時間が少なくなってしまいます。試合時間が長い日もあれば、短い日もありますし、試合後に先輩と食事をして遅くなる時もあります。

就寝時間や起床時間がずれやすい日々の中で、バランスよく時間を使うことには、とても苦労しました。慣れてきてからは、1年間、整った体調をキープするため、寝る時間と、起きる時間をできるだけ一定にするように調整していました。

慣れない頃は、ナイターの試合後に室内練習場でバッティング練習をすることもありましたが、徐々に早く帰宅して早く就寝するというパターンを確立し、やるべきことは試合前に終わらせるというのが自分のスタイルでした。

「鳥谷は誰よりも早く球場にきて練習する」と様々な方に言ってもらえていたのも、そういうルーティーンがあったからで、何か特別な事をしていたわけではありません。

今年の春季キャンプで臨時コーチをさせていただいた時に、小幡選手から技術的な質問を受け、話をしました。年齢もかなり離れているので、正直なところ、どう思われているかはわかりません。自分が20歳も年上の人から何か言われたら、それに対して、違うとは絶対に言えませんから。
でも、しっかりとした考えや他の人にはない部分を持った選手だと感じています。