なぜ教養をほしがるのか? 
本当にほしいのはファスト教養

そもそも教養がある人など、人類のうち1%もいないでしょうから、ほとんどの人間にとって教養とは縁遠いものであり、そのような存在を多くの人がなぜほしがるのか疑問です(余談ですが、筆者は教養がほしいと思ったことはありません)。

この点について詳しく論じているのが、集英社から出版されている『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』です。この書籍の中で著者のレジー氏は、多くの人がほしがる教養を「ファスト教養」と表現しています。

「教養あるビジネスパーソン」は本当に教養があるのか? 「教養としての〇〇」が氾濫する現代人の甘い目論見_3
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書籍の中でレジー氏はファスト教養を以下のように定義づけています。

「楽しいから」「気分転換できるから」ではなく「ビジネスに役立てられるから(つまり、お金儲けに役立つから)」という動機でいろいろな文化に触れる。その際自分自身がそれを好きかどうかは大事ではないし、だからこそ何かに深く没入するよりは大雑把に「全体」を知ればよい。そうやって手広い知識を持ってビジネスシーンをうまく渡り歩く人こそ、「現代における教養あるビジネスパーソン」である。着実に勢力を広げつつあるそんな考え方を、筆者は「ファスト教養」という言葉で定義する。
(『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』より)

非常に的を射た表現です。多くの人がほしがる教養がファスト教養と思えば合点がいきます。世界史、地政学をはじめとし、ワインや絵画といったビジネスシーンで活用できそうな知識ほど、「教養としての○○」という形でビジネスパーソンに提供されています。

Amazonで教養というキーワードで書籍を検索してみると、ありとあらゆるテーマの「教養としての○○」が販売されており、同時にビジネスエリートやビジネスパーソンという言葉が並んでいることから、レジー氏の指摘するようにビジネスパーソンにとっての教養とは、他のビジネスパーソンとの差別化に欠かせないものになっていることがわかります。

とはいえ、書籍タイトルは著者ではなく出版社に決定権があることが一般的であり、教養という言葉を付けていれば売れるからこそ、これだけの数の教養本があるということです。