「なんか今、あそこに変な女の人がいましたね」

──清野さんの漫画の視点のおもしろさを実感する瞬間は?

それはもう、常に。一緒に街を歩いていても、変な人を見つける嗅覚や街に対する解像度の高さは全然違うと思いますね。

溝の口には僕も一緒に取材に行ったのですが、通りにスレンダーな若い女性が手ぶらで立っていたんです。別に街の景色からそれほど浮いているわけではないし、無視できる程度の違和感なんですけど、清野さんはやっぱり素通りしないんですよ。「なんか今、あそこに変な女の人がいましたね。怪しくないですか?」みたいに見逃さない。

ファッション誌『UOMO』の池田編集長
ファッション誌『UOMO』の池田編集長
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同じく溝の口で朝から缶チューハイを持ったおじさんとすれ違ったんです。「何を飲んでいたか見ましたか?」と聞かれて、かろうじて覚えていた“グレープフルーツ”と“ゼロ”というワードを伝えたら、サンガリアの缶チューハイだと特定。ちゃんと漫画に盛り込んでいて、ディテールを大切にする清野さんならではだと思いました。

見たもの全部を漫画に詰め込むわけにはいかないですし、取捨選択のセンスもすごいと思います。

──池田さんが清野さんの漫画を読んで、住んでみたいと思った街は?

豊橋ですかね。取り上げた街には僕も読者の気持ちで一度訪れてみるんです。豊橋は東京じゃない時点で最初から特別感がありますが、典型的な新幹線が停まる地方都市って感じで、過不足なく必要なものがそろっていて。住むならこんな街が楽しいかもと思いました。

この作品で訪れる街に関しては、清野さんはハプニングや事件を求めていない。なんでもないように見える街の、ちょっとしたおもしろいことを探そうとしていると感じます。

──読者からの反響は?

当然ですが、取り上げた街の書店さんではよく売れているみたいです。もちろん先生の地元の赤羽が一番売れるんですけど、熱海(静岡県)とか溝の口、豊橋の書店さんでもたくさん売っていただきました。

豊橋に登場した団子屋さんは、こちらから何もお願いしていないのにXで単行本を宣伝してくださいましたし、わざわざ「ありがとうございました」と編集部に手紙をくださったお店もあります。取り上げた街の方に喜んでいただけるのはすごく嬉しいことです。