GPシリーズ初出場・初優勝
積極的姿勢が幸運を引き寄せたか。北京五輪団体の銅メダル獲得に貢献した樋口新葉がケガを理由に休養に入ったため、渡辺はグランプリ(GP)シリーズのスケートカナダ、NHK杯の出場機会を得ることになった。アスリートの世界は、運も実力の内だ。
スケートカナダで渡辺は、初出場で初優勝を飾っている。SPは6位スタートも、上位とは僅差。フリーはトリプルアクセルに成功し、勢いに乗った。134.32点を叩き出し、痛快な逆転優勝だ。
続くNHK杯もSPではミスが相次いでいる。しかし腹を据えたフリーは強く、3位のスコア。挽回及ばず総合5位だったが、ここでも運を味方にGPファイナル出場圏内に滑り込んだ。
そして勢いは衰えない。GPファイナルも4位と大健闘。遅咲きのシンデレラはみずみずしく、はつらつと輝いた。
当然のごとく、全日本選手権でも優勝候補の一角に名前が挙がった。世界女王の坂本花織の牙城は高かったが、2番手に食い込む可能性は感じさせていた。たった1年で瞠目すべき躍進だ。
ただ、全日本は「魔物がすむ」と言われるほど、勢いのある挑戦者を飲み込む場でもある。
「悪い意味で、気負いすぎて。ファイナルは出場しましたが、全日本はまた違いました」
渡辺はそう振り返っている。SPは18位と思いのほか出遅れた。
「前は力むくらいで跳んでいたんですが、最近は力を抜かないと跳べなくなって。6分間練習では、流して跳べていたんです。
でも今度は流して飛ぶことにとらわれてしまった。変な、嫌な緊張というのがありました。調子よくできてしまっていただけに、その感覚に頼りすぎたというか」
「這い上がっていけばいい」と気持ちを入れ替え、フリーではトリプルアクセルを成功させた。彼女らしい“失地回復”である。
ただ、ルッツの失敗などが響き、大きく巻き返すことはできなかった。フリーも9位にとどまり、総合12位に終わっている。
「弱さが出ました。出ないように練習する必要があって。その意味では自分には伸びしろしかないです」
渡辺は決意を口にした。シーズン全体の成績が評価され、四大陸選手権と世界選手権の出場も決まった。
四大陸では、やはりSPで出遅れた。しかしフリーで自己ベストを叩き出し、逆襲を展開。彼女らしいドラマで、5位に入った。
「世界選手権は五輪以外では最高峰の戦いだと思うので、どこまで通用するか、ベストの演技でいけるところまでいってみたいです。ピークを持っていけるように頑張れたらなと」
渡辺は虎視眈々だったが……。