才能開花の背景にコーチの言葉

2020-2021シーズン、シニアへ転向した渡辺は、全日本選手権に出場した。しかし、失意の27位に終わった。ジュニア時代、2回出場していたときより10近く順位を下げた。

この時点で、「世界」は遠かった。

それが2021-2022シーズン、東日本選手権でSP、フリーをまとめて1位に輝く。

全日本選手権ではそうそうたる選手たちと肩を並べ、6位入賞。スピン、ステップと技術の高さを見せ、得意のトリプルアクセルも成功し頭角を現した。

「過去の自分を超える」

そう言って、自身と向き合ってきた彼女の道が開けた。

伸び悩んでいた彼女にとって、ひとつの転機があった。コロナ禍によって拠点としていたカナダから戻り、2021年夏からMFアカデミー中庭健介コーチの指導を受けている。

渡辺は本番での失敗の恐怖が課題だったが、中庭コーチから「怖いという感情を自ら呼び起こしている。怖いと思ったら、逆に普通に跳べているときのことを思い出せ」と言われ、メンタル面から変わった。

肯定的にジャンプに取り組めるようになり才能が開花した。

2022-2023シーズン初戦のチャレンジシリーズ・ロンバルディア杯ではトリプルアクセルという伝家の宝刀を抜き、213.14点と大台に乗せて優勝した。

シニア女子の日本歴代6位(2018-2019シーズン以降)の記録だ。全日本6位はフロックではなかった。

その直後、東京選手権は記録達成の疲れを引きずったか。SPは54.69点と点数は伸びなかった。

「(ロンバルディア杯が)終わって、日本に帰ってきて1週間とちょっと。疲れが残っていることもあって、(SPで)アクセルは回避しました」

渡辺は演技後に振り返った。

「でも、それが仇となって違う方向に考えがいってしまいました。アクセルに集中していたからこそ、ほか(のジャンプ)を怖がらなかったんです。メンタルの問題で」

フリーでは果敢にトリプルアクセルに挑戦し、転倒した。しかし、その挑戦心のおかげでジャンプの成功率も上がる。練習で失敗の確率を下げ、本番で失敗を恐れない。それが太い芯になった。