1980年代の所ジョージの芸風

しかし、所さんは昔からこうだったわけではない。

1980年代あたりから本格的にテレビに出始めた彼だが、当初はもっとキャラクターを前面に出していた。植木等が彼を評して「昔の自分と同じで軽佻浮薄」と表現したように、常に「そんな眉間にしわ寄せてないで楽しくやろうよ」的な雰囲気の軽やかな人であった。

もちろん、根っこは今でも変わらないが、表現の仕方は今とはかなり違っていた印象だ。

令和においても物真似でやる人がいる「す・ご・い・で・す・ねー」は1984年の新語・流行語大賞だが、これは言葉では褒めているけれど褒めていない彼流のアイロニーだったし、深夜のお色気バラエティ『TV海賊チャンネル』(日本テレビ系列)ではあまりの過激さに指導が入ったことを受け「自粛」と称して変なVTRを流したりもしていた。今よりもっと軽薄(当時だとカタカナで「ケーハク」だったかもしれない)を前面に出していたわけである。

『笑っていいとも!』(フジテレビ系列)のレギュラーに出ていた頃のコーナー「金言・格言色紙でどうじょ!」は視聴者から「格言に似た言葉」を募集するもので「ローマは一日にしてならずに似た言葉で!」「老婆は一日にしてならず!」みたいなネタを毎週読んでいた。

私がなぜか印象に残っているのは「桜田淳子でーすに似た言葉で!」「さくさくう●こでーす」というネタで、格言でも何でもないが、タモリ・所両名が大はしゃぎしていたのを覚えている。

『マジカル頭脳パワー!!』の影響

90年代からは今でも後継番組が続く『どちら様も!!笑ってヨロシク』(日本テレビ系列)や『たけし・所のドラキュラが狙ってる』(TBSテレビ系列)などメインMCの仕事や、俳優、絵本作家など異業種仕事も増えた。黒澤明監督の映画『まあだだよ』に出演したり、朝ドラ『青春家族』(NHK)に出ていたのもこの時期である。

今でも自身で言っていることだが、彼の本業は歌手だ。しかし、求められているうちに彼の喋りの才能、絵の才能、演技の才能、趣味といった引き出しがどんどん開いていき、このあたりではすっかり「マルチタレント」に括られるようになった。

特に世間の印象が変わったのは『マジカル頭脳パワー!!』(日本テレビ系列)であろう。ここでの所ジョージの正解率は異常で、毎回トップをとる彼に「実は地頭がものすごく良く、頭の回転が速い人」というイメージがプラスされた。

ただのケーハクな人から、知的好奇心にあふれた遊び心ある大人のイメージに変わったことで、その後、どんどんと彼の出演する番組のテイストや彼の役回りが変わっていったのである。