「テレビは家族で見る」家庭で経験した悲劇
私が小学生くらいだった頃、テレビは家族で見るものだった。
そもそもテレビは一家に一台しかないのがあたり前で、見たい番組があったとしてもそれが見られるかは、父親がいつ家に帰ってくるかなど、チャンネル権を握っている家族の状況に左右された。
うちの父は基本NHKしか見ない人で、民放で唯一見るのは動物番組だけだった。我が家は父親が家族一緒に何かをすることにこだわる人間で「(子どもには)つまらない番組だから私は自分の部屋にこもる」と言いだすのも難しく、黙って大して見たくもない番組を家族全員で見ていた。
その時間は苦痛でしかなかった。いや番組がつまらないのはまあいい。見たい番組が見られないなんてのは当時はよくあること。それ以上に何が苦痛だったかというと、父がテレビを見ながら文句を言い続けることだった。
NHKの歌番組などで若者に人気の歌手が出たりすると、父はつねに「こんなの何がいいのか」「お前はこんなのを聴いてるのか」など小言を言い続け、私の好きだったタレントも「こいつの言ってることはいつも低俗だ」「こいつが出てくるならテレビ消そう」と言いたい放題だった。
今でも年末の紅白だけは実家で家族と見るという若い方もいらっしゃるだろう。その際に親が流行りのK-POPのアイドルを「よくわからない」「みんな同じで区別がつかん」などと言ったりすることがあるかもしれない。
自分の好きなものを腐されるのは気に食わないが、まあそうはいってもたかが年1回、流行に疎い親の話に付き合うくらいは帰省の醍醐味として我慢できる。
しかし、私の幼少期はそれがほぼ毎日だった。
その後、我が家がゲーム用にテレビをもう一台買ったことや、録画可能なビデオ機器が登場したことで、私は徐々に見たい番組を見られるようになっていくのだが、幼少期の「テレビに文句を言い続ける父」は私にとってトラウマとして刻まれた。