「探検部として負け組だから就職」
そんな探検部員たちも、いつかは大学を卒業し、社会へと羽ばたいていくことになる。いや、羽ばたいていくのだろうか?
卒業生たちの進路について聞いてみると、「就職アンチ派が多いような気がします」と久保田さん。田口さんが次のように補足する。
「どこかに、探検家になれないから就職する、っていう意識があるんでしょうね。『俺たちは探検部として負け組だから就職した』みたいな」
就職先が決まった部員たちはみな、申し訳なさそうな顔で卒業していくという。普通なら、就職先が決まらなくてゼミやサークルにいづらくなるところが、探検部では価値観が逆転している。
一方で、「就職したほうがいいな、という気持ちがあるのも事実です」と富田さん。探検部員だった久保田さんの姉も就職していて、久保田さん自身も「就活しないとヤバい」と嘆いている。
しかし、少し目を離すと、富田さんが「あと1年くらい、執行猶予つけたらいいんじゃない?」と、久保田さんを留年に誘っていた。久保田さんも「遠征に誘われると、そっちに流れそうになっちゃう」とグラついている。
探検部で活動していれば、就活では最近でいう「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)には困らなさそうだが、3人とも「ガクチカ……?」と不思議そうな顔をしている。
そういえば、探検部以外の「最近の大学生」について尋ねたときも「どうなんでしょうね。交流がないので……」「探検部以外に友達がいなくて」といった調子だった。
「僕たちは世間に背を向けてるんです」と、田口さんは表現する。「メインストリームに対する『けっ』っていう気持ちは、みんなどっかあるよね」と。
しかし、そこにネガティブなニュアンスは感じられない。単純に興味がないだけのように見える。
そして、気づけば「そろそろ次の活動の偵察旅行に行く予定なんですけど」「ニューギニアがポシャりそうだから、そっちに行ってもいいかな」と探検の話で盛り上がっている。本当に探検のことしか頭にないのだ。
この令和の世にも、早稲田大学探検部はちゃんと存在していた。それも、UMA(未確認生物)のような奇ッ怪な存在として、ではない。
ただ、不器用でひたむきな“愛すべき探検バカ”の集団として。
後編では、早稲田探検部OBで「辺境探検作家」の高野秀行氏にインタビューする。
取材・文/寺井麻衣
撮影/岡庭璃子
編集/一ノ瀬 伸