早稲田大学探検部はまだ海外旅行が自由化されていなかった1959年、留学や学術調査といった公的な理由を得るために「探検研究会」として発足。
直木賞作家の西木正明氏やノンフィクション作家の高野秀行氏、探検家で作家の角幡唯介氏らをOBにもつ、大学探検部界の名門である。
高野氏の探検記『幻獣ムベンベを追え』をきっかけに、“未知動物探しの早稲田”と呼ばれるようになったり、ロシアの未踏峰に「ワセダ山」と名づけたりと、破天荒な活躍を見せている。探検部そのものがどこかUMA(未確認生物)的でもある。
令和の世に、早稲田探検部はいかに存在しているのだろうか――。実態を知るべく、早稲田大学のキャンパスへと向かった。
「バカしかいないから入らないほうがいい」
部室がある学生会館は、意外にも近代的な建物だ。11階建てでエレベーターもついている。
もしかしたら、いかにも現代大学生風の“マッシュルームボブ”の部員などに出迎えられるかも……と部室の扉を開けると、不思議な臭いがただよう雑然とした空間が広がっていた。
「すみません、臭いますよね。この前、ナマズ鍋をつくったので」と迎えてくれたのが、田口慧さん、久保田渚さん、富田大樹さんだ。
3人は、2022年秋の「ナカタン氷河遠征隊」のメンバーでもある。彼らを含む隊員5人は、ヒマラヤの標高6000m地点にある巨大氷河を「ナカタン氷河」と名づけ、現地調査を行ったのだ。
探検の主目的ではないが、標高6000mで油そばをつくって食べたことに関するSNS投稿は広く拡散されていた。
早大探検部快挙!?!?!?
— 早稲田大学探検部 (@wasedatanken) October 5, 2022
この度早稲田大学探検部は武蔵野アブラ學会の全面協力のもと、ネパールヒマラヤ6000mにおいて油そばの調理、喫食に成功。
油そば人類最高到達標高の記録を見事更新(多分)
衝撃の記録映像をとくとご覧あれ!#武蔵野アブラ學会#油そば pic.twitter.com/lwTFjHdcka
早稲田探検部はインカレサークルで、ナカタン氷河遠征隊隊長の田口さんは早稲田大を5年で今春卒業、久保田さんは成城大4年、富田さんは大阪大3年だが探検部員としては2年目と、大学も学年もバラバラだ。
1年生から8年生(!)まで合わせて30〜40人。正確な人数は把握していないそうだ。
では、みんなどのような経緯で入部したのだろう。
「もともと関野吉晴さんという探検家が好きで、彼のように医者になって世界を探検しようと思ってたんです。
でも医学部は落ちちゃって(笑)。それで早稲田に入ったら、ちょうど探検部があったので」(田口さん)
入学式当日、新入生勧誘でにぎわうキャンパス内、探検部の新歓ブースは「すごく見えにくいところにポツンとあった」という。
「他の部の新歓ブースは、お菓子やジュースを用意して『楽しいからうちのサークルに入りなよ〜』って勧誘してるんです。
だけど探検部の人たちは『別に楽しいことはないぞ。やめとけ』とか『バカしかいないから絶対に入らないほうがいいよ』って言ってくる。それで、探検部の愚痴を言い続けてるんですよ」
新歓ブースの体を成していないが、自由に気ままに振る舞う先輩の姿が、田口さんの目に魅力的に映った。
「ある先輩に『今、休学したらヒマラヤに連れて行ってやる』と言われて、その過激さにも惹かれました。普通、新入生にいきなり休学の話なんてしませんよね?」