「政府は沖縄を再び戦場にするのか?」自衛隊配備の現場を行く・石垣島編_1
石垣島の自衛隊基地建設現場。弾薬庫らしきもの(台形の山自体)が目視できる
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ペロシ議長の訪台で高まる米中の緊張感

いったい何から書けばいいのか、それが今の私の個人的な感想だ。そもそもこの記事を企画し始めたのは昨年9月の沖縄県知事選挙直後、岸田内閣が土地規制法の運用について閣議決定をしたことだった。

土地規制法とは軍事基地など安全保障に関する施設の周囲約1キロについて監視や捜査を強化するもので、国家の恣意的な運用が懸念されている。

9月に辺野古のゲート前で新基地反対運動の象徴的存在である山城博治氏にインタビューした際も、この法案を根拠に「辺野古ゲート前のテントが撤去される恐れ」を語っていた。

しかし、それからの数ヶ月で状況は目まぐるしく変化し、あからさまな「戦争への準備」が激流のように島々を包み込んでしまっている。有権者との合意形成も曖昧なまま、想像できなかったほどの猛スピードで外堀が埋まっていくのを見つめながら、私も取材者として混乱しているのが正直なところだ。

以下、この半年の動きを時系列で整理してみよう。

2022年7月8日 安倍晋三元首相が選挙活動中に銃撃によって死去。旧統一教会問題をマスメディアが取り上げるようになる。

7月11日 参議院選挙、改憲勢力が定数の3分の2以上を占める。

7月28日 「火遊びをするものは身を焦がす。米国に理解するよう望む」米中による電話会談で、習近平がバイデンに対しペロシ下院議長の訪台について牽制する。

同日 バイデン大統領は「米軍は、今は良いアイディアではないと考えている(the military thinks it’s not a good idea right now)」とペロシ氏訪台について記者会見で答えた。

8月2 米国下院議長、ナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問、蔡英文総統と会談。

8月4 中国軍は 軍事演習として台湾周辺に弾道ミサイルを発射。「ペロシ氏の台湾訪問に対する抗議」と中国政府は発表する。

この弾道ミサイルの内5発が与那国島北北西80km、日本のEEZ(排他的経済水域)内に着弾したとして、日本政府は中国政府に対して抗議。与那国島の漁協は漁の自粛を決め、地元の漁業は8月下旬まで平常に戻らなかった。

しかし中国政府外務省報道官は記者会見で「両国は関連海域で境界を確定しておらず、演習区域に日本のEEZが含まれるという見解は存在しない」と主張した。日本のマスメディアは、EEZ内に弾道ミサイルが着弾したことをことさら大きく強調したが、実は現在、日中間でEEZの境界線は確定しておらず、中国側としては日本のEEZ内にミサイルを着弾させたという認識が無い。この点は重要なポイントだ。

ペロシ氏の訪台は、米国政府の公式な訪問ではない。前述したバイデン会見にもあるように、ホワイトハウスは難色を示している。

米当局者はロイター通信に対し、中国に批判的なペロシ議長の訪台前に、「不必要に挑発的な配備で問題をエスカレートさせたくはない」と語り、偶発的な衝突を望まない米軍は、空母ロナルド・レーガンを台湾近海から一時離脱させた。

しかし、バイデンにはペロシを止められない理由があった。三権分立である。同じ民主党とはいえ、行政の長であるバイデン大統領に、立法の長であるペロシ議長の行動をコントロールすることはできないのだ。

台湾の友人に連絡して実状を聞いた。香港のデモを機に台湾へ移り住んだ私の友人はペロシ氏を歓迎していたが、周りの台湾人の若者たちは「なぜわざわざ中国を挑発するのか?」と嘆く者も多かったという。世論調査では「大歓迎」が24.5% 「まあまあ歓迎」が28.4% 「歓迎しない」が24% と日本のメディアが書くような「熱烈歓迎」というムードとは少し違う現実を感じさせた。

この訪台について、引退を控えたペロシ議長(82歳)個人のレガシー作りととらえる声もあるが、台湾有事の緊張を高め、その後の防衛費倍増など日本国内に与えた大きな影響を考えると、個人のスタンドプレーとは言い切れない「何か」を感じるのは私だけではないはずだ。