側近との亀裂が招いた政権の不安定化
会員制情報誌『選択』の放った2026年4月号の特集記事『高市が「退陣」を口にした夜』が永田町を駆け巡った。かいつまんで説明すると、高市早苗内閣の官房参与である今井尚哉をはじめとした首相周辺の〝側近〟たちと高市本人が衝突し、政権が揺らいでいるという記事だ。
高市と今井の行き違いの初めが衆院の早期解散・総選挙を巡る日程の食い違いである。
早期解散論者だった今井は、昨年12月から経産省時代の先輩官僚である元資源エネルギー庁長官の高原一郎などを連れ、自民党の国会議員に選挙の根回しをしていた。高原と今井はともに原発再稼働推進派の官僚であり、気心も知れている。
その二人が自民党議員に衆院の解散・総選挙をほのめかすものだから、不安に感じてきた衆議院議員も少なくなかった。ある中堅幹部はこう振り返る。
「自民党総裁選で推薦人として総理を担ぎ上げた松島みどりなどは昨年末、高市さん自身に『年末年始に海外に行こうと考えていますけれど、問題ありませんか』と尋ねたといいます。解散があれば選挙準備に入らなければならないので、そう聞いたわけです。
すると高市総理は『安心してどこへでも行ってください』と答えたみたい。その手の話が他の議員にも伝わり、『年明け早々の解散はない』と誰もが考えるようになっていたのです」
今井が高市に提案してきた1月9日の通常国会召集と同時の冒頭解散、25日投開票が消えた背景には、こうした裏事情があったという。高市が今井の提案を受け入れず、ここから二人のあいだにズレが生じていったといえる。
強硬姿勢がもたらした対外関係のひずみ
もっとも二人のズレはこれだけではない。もう一つが高市の台湾を巡る存立危機事態発言だ。政界では高市外交について、第二次安倍晋三政権との違いを指摘する声が少なくない。
安倍は「ドナルド」「シンゾ―」と互いにファーストネームで呼び合った米大統領トランプとのゴルフ外交で知られた。半面、中国総書記の習近平が進める経済圏構想「一帯一路」政策にも協力する姿勢を見せた。
安倍を慕う高市もまた首脳会談で「ドナルド」と呼んだ。が、対中関係は自らの存立危機事態発言のせいでこじれてしまう。周知のように今もって改善の兆しが見えない。そこに苛立った今井が高市に対し、台湾海峡の存立危機事態発言の撤回を求めた。
高市に対するその助言の裏には、今井なりの成功体験がある。
第二次安倍政権後半の2017年5月のことだ。安倍政権内では、自民党幹事長の二階俊博の訪中を巡ってひと悶着あった。
親中派として知られる二階は自民党の幹事長時代に毎年のように訪中し、このときは一帯一路政策を進める習近平と直接会う段取りをつけた。そこでアジアインフラ投資銀行(AIIB)の協力を約束する中国国家主席宛ての首相親書を持参した。
通常、この手の外交親書は外務省が草案を書き、官邸にいる外務省出身の事務秘書官を通じて首相に親書の中身の確認を求める。事実上、外務省が書く内容を煮詰め、最終的に外務大臣の決裁を経て首相が了承する運びだ。
しかし、このときは違った。米国との関係を重視してきた外務省としては、中国の一帯一路政策に全面協力するような親書など起草できない。したがってそれなりの曖昧な表現にとどめてきたようだが、それを今井が書き換えて二階に託したのである。













