「うちのイマームは宮城県でいちばん素晴らしい」
さっそくモスクを見に行ってみる。内部は広大で、男女別に分かれた礼拝室のほか、礼拝前に身を清める水場や、礼拝者用の複数のトイレがある。空間はかなり清潔に保たれており、個人が建てたモスクにもかかわらず、私が過去に見たことがある滋賀県や中京圏の一部のモスクよりも「ちゃんとしている」印象だ。
モスク内には、ガラスの扉があるしっかりした本棚にイスラム教の経典が備えられていた。そこで母屋に戻り、アジズに「ここ、イマームもいるんですか?」と訪ねてみる。イマームはイスラム教徒のコミュニティの指導者で、礼拝を主催する役割も担う宗教者のことだ。通常、教義について深い学識を持っており、いわば「専従」の形でモスクで勤務している(この表現が適切かはわからないが)。
「いますよ。イマームがいなきゃ、モスクらしくないし。イマームがいるから人が来る。うちのイマームは宮城県でいちばん素晴らしいイマームです。すごく立派な人で、物静かで信頼できる。まだ30歳になっていないですが、みんな大好きなのです。いまは一時帰国中なんですが」
宮城県で最高のイマーム。範囲が広いのか狭いのかよくわからないが、宮城県には東北地方で最大のムスリム・コミュニティが存在しており、そのなかでは特別な存在ということだ。特に秋田県と山形県にはモスクがないので、これらの県からも大衡村のオオヒラ・モスクにイスラム教徒たちがやってくるという。
「イード(犠牲祭)のときは100人くらい来て、このモスクのなかが満杯になります。建物の外にカーペットを引いて、そこにまで人があふれるんですよ」
コンビニにパキスタン人、西友にインドネシア人
「来る人はパキスタン人が多いですね。うちのすぐ近所でも、国道沿いのむこうのコンビニの近くにパキスタン人が数人います。ほかに近辺だと古川(大崎市古川地域)と大和(黒川郡大和町)に多い。うち(ナジブ社)の仕事は機械輸出ですが、他のパキスタン人は9割方、クルマ関係の会社をやっています。ドバイやパキスタン国内向けに、中古車がよく売れるんですよ」
「あと、日本の会社で働いているインドネシア人も来ます。彼らを西友とかで見かけたときは、同じイスラム教徒だから声をかけて『うちにイスラムの場所あるよ』と教えてあげるんです。それで昨日も、インドネシア人が20人くらいここに来ていました」
ちなみにモスクは、このオオヒラ・モスクのように個人がお金を出して作るパターンと、信者たちが共同でお金を出し合って作るパターンがある。
「みんなで作ったところだと、ちょっと駐車場を広げたいとか、小さなことでも合議にかけないといけないので大変なんです。それに借地だと、礼拝に来た人の駐車が難しいとか、そういう問題も出ます。うちのモスクは個人でやっていて、自分の家の敷地にあるから、そういう意味ではラクなんです」
いわば、自腹の持ち出しで公共施設(ムスリムにとってのモスクは公共施設である)を作っているようなものだ。ただ、彼らの間では「モスクを建てると金持ちになる」という言い伝えもある。
アジズにいわせると、その理由は「神様のおかげ」だ。とはいえ客観的に考えると、自腹でモスクを建てるような徳の高い人は、コミュニティの内部で圧倒的な信頼を集めるので、商談が成立しやすかったり騙されにくくなったりするはずである。さらに、自分のモスクに近隣一帯の同胞が集まることでビジネスの人脈も広がっていく。モスク建設は一挙両得というか、損して得取れという結果になるのだろう。