宣伝、広報、パンフ作り……未経験の素人が「配給」に挑戦
荒川区にある南インド料理店「なんどり」。都電荒川線が走るのどかな音が聞こえてくる店内には、インド映画のポスターや切り抜きやチラシがびっしりと張られ、奥のほうには関連書籍やDVD、昔のVHSまで並び、深すぎるインド愛を感じさせる。ここの店主である稲垣夫妻が、その情熱で今回の作品を個人で買い付け、配給・公開までやってのけた。協力している映画宣伝会社「スリーピン」の原田徹さんは、
「個人が映画買い付けの出資をすることはありますが、配給して公開まで持っていくというのは初めてのケースかもしれません」
と、感心する。
そもそも配給とはどういう仕事なのか。
店主の稲垣紀子さんは「ひと言でいえば、買ってきた映画を映画館に上映してもらうお仕事です」という。
上映してもらうために、集客や宣伝などあらゆる広報活動を請け負う。それを素人の個人がやらなくてはならない。そのためにはインパクトの強いタイトルが必要だ。そこで稲垣さんたちがまず手を付けたのは、なんと……。
「思い切ってタイトルを変えちゃったんです」
原題は『世界はリズムで満ちている』だったが、パッションあふれる映画の内容そのままに『響け!情熱のムリダンガム』と命名した。ムリダンガムとは、作中で重要な役割を果たす南インドの伝統的な打楽器のこと。
「情熱、って入れちゃったんですけど、配給を情熱かけてやろうって、自分たちを鼓舞するところもありましたよね」(紀子さん)
さらにポスターやチラシといった宣材を制作するのも配給の大きな仕事のひとつ。プロのデザイナーに依頼してしっかりしたものをつくると、パンフレットにはインド映画ファンの熱量とトリビアを詰め込んだ。映画の解説や文化背景、インド音楽や楽器の紹介、劇中で演奏される曲の説明に、ロケ地マップ……。自分たちのお店そのままに、情熱をたっぷり注いだ。
「素人なんで、手加減がわからなくて暴走しちゃいました。でも『お宝』と思ってもらえるようにパンフを作ったんです。情報量だけはすごいと思います!」