「個人的な理由以外で、自由が制限されるなんて、
思ったこともなかったんです」
――扶桑社から発売された新刊『8cmヒールのニュースショー』は、「週刊SPA!」で2019年6月から2022年6月まで連載していた時事批評をまとめたもので、単行本化にあたって、2022年の後半部分を補足するような長い書き下ろしも追加されています。とても読み応えがあって、面白かったです。
ありがとうございます。連載は、本当にその週の出来事を取り上げるという縛りでやっていました。単行本化するために昔の文章を読み返していたら、かなり前のことなので自分でも忘れていることもあります。あの吉本の会長の変な会見のこととか(笑)。
マジで、すごいワイドショーでやってたじゃないですか。香港では周庭さんが逮捕された時期と重なっていて、あちらでは“最後の表現の自由”を求めて真剣に戦っている折、吉本では“新悲劇”みたいなことをやってたなあって(笑)。
私なんか吉本の件は、やっぱり組織に生きてる男って、育ててくれた吉本に反旗を翻すのかよ!みたいな話が好きなんだなって、男じゃないものとしてすごく冷笑的に見ていたんですけど(笑)。
――令和初期を見渡せるような本ですよね。
本当に、令和の最初の3年と丸重なりだったっていうのは、大きいかもしれないですね。元号がなんだよって感じもあるけど、後になってそういう分け方で語られがちですから。
――令和のはじめはコロナの時代でもあります。改めて考えると、私たちはすごい時代を生きているのかもしれませんね。
パンデミックが始まった頃、私はちょっと信じがたくて、航空会社から通達が来るまで旅行を頑なにキャンセルしなかったんです。2020年の3月も、ギリギリまでシンガポールに行ってたし(笑)。その次にプーケットとサイパンを回る予定だったから、細かいプロペラ機とかひとつひとつ個別に予約してたんです。
だから、キャンセルするのがすごくめんどくさくて。もう誰に反対されても絶対に行く!と思っていたら、結局、飛行機自体が飛ばなくなっちゃったんですよね(笑)。
私は人生で、お金がないとかお葬式に行かなきゃいけないとか親が病気だとか、そういう個人的な理由以外で、自由が制限されるなんて、思ったこともなかったんです。会社を辞め、末期癌だった母親が6年半前に亡くなって以降は旅行気分が高まって、いろんなところへ自由に行っていて。ドイツとともに世界中で一番どこにでもいける日本のパスポートを持っているわけですし。
それがあるときを境に、どこにも行けなくなるなんて、すごく非現実的な、夢の中にいるような感じでした。
私の祖母とかの世代は、厳しい戦争中に青春時代を送っていたけど、今は高校や大学の3年間が全部コロナ禍だったという青春丸かぶりの人もいるのかって思うと、すごくシビアな出来事ですよね。
連載も最初のうちは、コロナの話ばかりでした。コロナに関係すること、パンデミックに関係することしかニュースがなかったので。でも、その後はいろんな話題が復活してきて、改めて読み返してみると色々あったなっていう感じがします。
インタビュー・文/佐藤誠二朗 撮影/井上たろう
#1「日本では起きそうで絶対に起きないことだった」安倍元首相暗殺、旧統一教会問題、宮台氏襲撃、ガーシー当選……芥川賞候補作家・鈴木涼美が噛み砕く2022年ニュースはこちら