真夏にプレーすることの危険性

この夏も厳しい猛暑だった。国民に対して、テレビで熱中症の予防を呼び掛けるアナウンスが繰り返し放送された。その同じテレビで、高校野球が中継されることに違和感を覚えたのは私だけだろうか? 気温30度を越えたら原則として屋外での激しい運動をしないようスポーツ庁もガイドラインを設定している。

ところが高校野球をはじめ野球界は、まるで自分たちは特権階級で、治外法権が認められているかのように、この警鐘を無視し続けている。それを許すメディア、文科省、世論も完全に「甲子園という熱病」に冒され、冷静な判断力を失っているのではないだろうか。

筆者は、なでしこジャパンの中心選手として活躍する岩渕真奈が小学校時代を過ごした強豪クラブ、関前サッカークラブの小島洋邦監督にも話を伺ったことがある。その時の話も興味深かった。

「夏休みは練習をしません」

私ははじめ開いた口がふさがらなかった。夏休みは普段よりみんなで練習しやすい時期ではないか。野球の常識でいえば、指導者の手配さえつけば、週末以外も練習する道を模索するだろう。私は気を取り直して、小島監督の真意を訪ねた。するとあっさり、

「夏休みは、家族で過ごす時期ですから」

それからずっと小島監督の言葉をかみしめて過ごしてきた。サッカーは野球以上に運動量の激しい競技だから、暑い時期に練習するリスクを避けた方がいいという判断もあったのかもしれない。「夏休みは練習しない」という関前サッカークラブの方針に向き合うと、野球界がずっと変えることのできない様々な因襲の見直しにつながる。

甲子園を廃止せよと言っている訳ではない。ただ甲子園の開催期間をズラすこと、補欠の球児達が輝けるリーグや大会を創出することは、そこまで難易度が高いことだとは思えない。
高校野球界も高校サッカーに学び、根本的な方向転換をする時期に来ているのではないだろうか? そうでなければ、野球を選ぶ親子は減る一方になることを野球界全体が認識した方がいい。


文/小林信也  写真/共同通信