広島2位は心根の優しい青年だった
広島東洋カープの2位で「内田湘大(しょうだい)」の名前が告げられた瞬間、私は「おお!」と声をあげてしまった。
身長183センチ、体重89キロの右の強打者。打っては高校通算36本塁打、投げては最速149キロの「二刀流」として活躍し、本人は「プロでも二刀流をしたい」と希望を語っていた。
しかし、ドラフト会議当日の内田は「内野手」としてアナウンスされた。広島は内田の内野手としてのポテンシャルを高く評価しているのだ。
内田は群馬県北部にある利根商で高校生活を送っている。出身は長野県南佐久郡だが、中学では隣県・群馬の西毛ボーイズでプレー。高校は利根商に進学し、寮生活を送った。
ただし、中学時代の内田は「人数がいないので試合には出してもらっていましたけど、不動のレギュラーという感じではありませんでした」と本人が振り返るように、ごく平凡な存在だった。注目されたのは県選抜にも選ばれた双子の兄・耀晴(ようせい)。兄弟揃って利根商に進学したが、湘大への期待はさほど大きくなかった。
湘大は筋肉のつき方や機能まで研究しながら自主トレに励み、高校で見違えるように進化する。兄の耀晴が「湘大はみんなが寝ている間にも陰で努力していました」と証言するほど、もともと努力家だった。肉体が成長するにつれ湘大のパフォーマンスは劇的に進化していった。
そして、その魅力は身体能力だけではない。ドラフト直前時期に利根商に取材でお邪魔した際、挨拶を交わすなり内田は筆者にこう申し出てきた。
「よかったら、これ着てください」
季節の変わり目の群馬県北部の北毛地域は、寒風が肌を刺す。そんな場所に能天気にも半袖で訪れた筆者を見て、内田は自分のウインドブレーカーを差し出したのだ。「遠くから見て、寒そうだなと思って」と内田はこともなげに言ったが、高校生が初対面の中年男にできる気遣いではないだろう。
ただ才能に任せてプレーしてきたエリートではない。広い視野に立って自分を見つめ、誰よりも磨き上げたからこそ、内田湘大はドラフト上位指名を受けるほどの選手になった。
なお、5歳下の弟妹である凰貴くん、茉鈴さんも双子だという。内田がプロの世界で活躍できれば、そんな珍しい家族構成もきっと話題になるだろう。