レギュラーとサブではなく、AチームとDチーム

「補欠ゼロ」の取り組みを実際に指導者がどう感じているか。2019、2020シーズンに全国高校選手権で2年連続ベスト4に入った帝京長岡高校サッカー部の谷口哲朗総監督に聞くことができた。

「私は最初、抵抗がありました。やはり高校サッカーは年に一度の選手権を目指して、チーム内の戦いに勝ったレギュラー選手がユニフォームを渡されて戦う。そこに価値があると思い込んでいたからです。
ところが実際にリーグ戦を始めてみると、やってよかったと思うことばかりです。すべての選手が試合でボールを追いかけている姿に感激しますし、例えばDの試合の時、Aの選手が仲間のために一生懸命、ドリンクを作ったり、暑い日のハーフタイムにはタオルで仰いでやったり。そうすると、選手権でAチームが戦う時、Dの選手が彼らを応援する気合がぜんぜん変わってきます。以前よりずっとチームの絆というか、全体がひとつになって戦う気持ちも熱くなったと感じます」

AチームかBチームかの違いはあっても、選手と補欠の区別はない。部員はみな選手であり、常に試合が控えている。それぞれが次の試合に向けて練習し、工夫と準備を重ねる。みんなが選手だから、練習以外の時間の過ごし方、食生活への意識にも緊張感が高まる。

なぜ高校野球は、こうした高校サッカーの取り組みを学ぼうとしないのだろう。同じ学校の中で、すでにサッカー部では「補欠ゼロ」の概念が取り入れられて久しいのに、「高校野球もそうしよう」と声が上がらないのはなぜか? 
高校サッカーができたのだから、高校野球でも、甲子園以外に、サブのメンバーが試合できる機会を創出すべきなのだ。