「負け犬」と違って「アンダードッグ」はポジティブな意味

――英語の「アンダードッグ」は日本語では「かませ犬」「負け犬」と訳されます。ネガティブな意味にとらえられますが、これが「判官びいき」に通じるとは、どういう解釈なのですか。

日本語の「かませ犬」は、”一見強そうに見えるけれど、負ける目的で用意された犬”のことです。負け犬は”どうせ負ける””自分なんて駄目だ”と自己完結して、戦う前に負けている犬です。

どちらも結果として負けるので、ネガティブな意味でとらえられます。しかし、アンダードッグはこれらとは少しニュアンスが異なり、勝てそうになくても、逆境を跳ね返そうとがんばる人や状況を示すので、ポジティブな意味合いになります。

「アンダードッグ効果」とは、負けそうな状況の中でも、一生懸命に勝とうと努力する姿を周囲が認め、共感する人や応援してくれる人が増えてくる様子をいいます。

源義経は兄・頼朝のために必死で働いて功績をあげるも、やがて対立し、最終的に自害に追いやられました。判官職にあって鎌倉幕府の設立に貢献しながらも、非業の死を遂げた義経に世間は同情し、そこから立場が弱い者に肩入れすることを「判官びいき」というようになりました。

不遇な状況や、勝てそうにない立場に置かれながらも、そこでがんばる人の熱い姿を見ていると、応援したくなることがあるでしょう。当の本人も、そうした周囲の反応が刺激となってさらにがんばることができる。これは心理学ではエビデンスをもって説明される人間の心の反応です。

圧倒的に不利な状況でも、周囲を味方につける「アンダードッグ効果」とは【心理学博士に聞く】_1
源義経(1159-1189)の肖像
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――今年(2022年)の夏の甲子園では、大会前は無名の存在だった下関国際高校が強豪校を次々と撃破し、決勝に進出。戦うごとに共感を集めていきましたね。

スポーツで強豪チームと弱小チームが対戦する、将棋で大人と子どもが勝負するなどで接戦になった場合、弱小チームや子どものほうを応援する心理が働きます。

この場合、弱小チームも子どもも、結末としてはたいてい負けてしまい、トップドッグ(勝ち犬、勝者)にはなれません。それでも、人はその奮闘努力のプロセスに物語を読み取って心を動かされ、勝ち負けを見る以上の感動を胸に、期待を持ってその後も応援していくわけです。

「アンダードッグ効果」が最初に言われたのは19世紀のアメリカでの選挙で、形勢不利なほうに同情票が集まる現象を称したと伝わっています。死亡した議員の家族が立候補する「弔い選挙」では、当選することが多いのもアンダードッグ効果だといわれます。

圧倒的に不利な状況でも、周囲を味方につける「アンダードッグ効果」とは【心理学博士に聞く】_2
今夏の甲子園ではダークホース的存在ながら、大阪桐蔭、近江と優勝候補を次々と撃破し、戦うごとに共感を集めた下関国際高校のナイン(写真/共同通信社)
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