主演の“のん”はワンアンドオンリー、とてつもない天才
海に面した風光明媚な街・三ツ瀬。そこにある老舗旅館・天間荘は、瀕死の身体を離れた魂が、現世に戻るか、天界に旅立つかを決めるまでとどまる場だった…。そんなファンタジックな設定の映画『天間荘の三姉妹』(10月28日公開/東映配給)の原作は、実は同名の青年漫画! 緻密かつダイナミックな画風と骨太なドラマ作りに定評のある髙橋ツトム氏の作だ。
そして映画化を手がけたのは、『ゴジラ FINAL WARS』(2004)『ルパン三世』(2014)など、スタイリッシュかつ迫力のアクション描写で知られるアメリカ在住の北村龍平監督。本作では得意のバイオレンスは封印、主演ののんをはじめ、豪華キャストの魅力を存分に引き出し、心温まるヒューマンドラマに仕上げてみせた。
実はおふたり、2003年に映画『ALIVE アライヴ』で原作者と監督として出会い、約20年来のつきあい。『天間荘』の元となったシリーズを元にした『スカイハイ 劇場版』(2004)や『LOVEDEATH-ラブデス-』でもタッグを組み、「兄弟」と呼び合う仲なのだ。気心知れた盟友だからこそ引き出せる互いの本音や、映画製作の裏話をたっぷり話していただいた。現場にたまたまいあわせた、脚本の嶋田うれ葉さんのうれしい飛び入り発言も。
──タイトルロールの三姉妹は、若女将の“のぞみ”に大島優子、次女でイルカトレーナーの“かなえ”に門脇麦、事故で臨死となり天間荘を訪れた、母親違いの妹“たまえ”にのん、という実力派ぞろいのキャストですね。
髙橋 のんちゃんが演じてくれたたまえの、あの明るいキャラクター成分は漫画の設定上必要でした。基本的に作品の世界観はダークですし、現世と同じ姿をした街の人たちが実は…という部分をオブラートに包むように狂言回しをするキャラクターのような存在がいなければと。
映画を拝見して、その役割を果たしたのんちゃん、とてつもない天才だと思いましたよ。あの三姉妹の持ってる突出した部分にせよ、性格にせよ、実にリアルな側面も感じさせてくれて。
北村 のんちゃんとは原作や脚本を読んでいただいた段階で話をして、分かりあえていると思ったんですね。彼女は他の誰とも似ていない“のん”というワンアンドオンリーな存在で、ある意味とてもハリウッド的な役者だなと感じました。
もちろん、三姉妹のほか素晴らしいキャスト全員がそうなんですが、きちんと役柄を掘り下げて完璧な準備をして、それぞれの答えを持って現場に来てくれていたので、あとは現場で自由に話し合いながらセッションのような感じで一緒に作り上げていくことができたのは刺激的でした。
髙橋 天間荘のみんなが完全に家族になってるのがすごかったです。
大島さんと門脇さんは冒頭のたった3分くらいで、キャラをもうパーフェクトにつかんでくれて。あれでもう俺はこのまんま(物語の世界観に)ついていけばいいんだなって思わせてくれた。
北村 おっしゃるとおり、冒頭の3分で観客を乗せてそのまま惹き込まなきゃダメなんで、長回しのワンテイクに見える演出にしました。映画の導入としても、のぞみの緊張感とリンクした、ある種ジェットコースターの最初のような「ガタガタガタ」と昇って行くようなワクワク感に惹き込まないと、普通のホームドラマみたいになっちゃう。大島さん、門脇さんなら絶対にそれを体現してくれるとわかってました。